九月下旬、文化祭当日。
朝から体育館特設ステージには次々と各クラスや部活動の発表が続いていた。観客席には保護者や生徒、外部からの見物客も多く、ざっと六百人を超えている。体育館は熱気に包まれていた。
清栄高校演劇再生プロジェクトの出番は午後の後半、最後から三番目。
本来の十七分公演のはずだったが、当日全体進行が押してしまい、運営から「最大七分以内に短縮してほしい」と急遽通達が入った。
「七分……!」
舞台袖で連絡を受けた充は、一瞬呆然とした。
「でも……まあ、想定してた変動範囲内だな」
凌太が冷静に答えた。
「即興部分はそもそも尺調整の余白だった。アドリブ対応で圧縮できる」
「曲も圧縮版のテンポアップパターン作ってある」
イヴァンもすぐに照明プログラムを確認する。
「短縮モード、対応可能」
「紗季、衣装の演出部分、短縮版で動ける?」
「もちろん! 切り替えプランAだね!」
「全員、リハで確認した通りでいく。——落ち着いていこう!」
充が皆を見渡すと、全員が力強く頷いた。
そして、開演のベルが鳴った。
七分間の勝負が始まる。
最初の朗読が始まると同時に、会場の空気がピリッと引き締まった。
「ここは光を失った古い劇場。だが、私たちは探す——“光”を——」
咲来の静かな声に、体育館のざわつきがスッと静まっていく。
イヴァンが即座に照明を切り替え、柔らかなサイド光が揺らぐ布幕を包み込む。光ファイバーの糸がふわりと輝き、まるで夜明けの波のような揺らぎが生まれる。
凌太のアップテンポにアレンジした伴奏が入り、演者たちが舞台中央に躍り出た。
——観客の目が一斉に釘付けになった。
衣装が光る。
布が揺れる。
音と照明が同期して波打つ。
そして次々に観客席から驚きのささやきが漏れる。
「えっ……あの衣装、光ってる……」
「揺れてる光が綺麗……」
予定通り、“観客の反応”が自然と誘導されていく。
「次、旗演出入るぞ!」
舞台袖から充が小声で確認を飛ばすと、紗季が大きく頷き、二本の布旗を高く掲げる。旗がリズムに合わせて揺れ始めた瞬間、紗季は一瞬、あのプレ公演の突風事故の記憶が脳裏をよぎった。——けれど、もう怖くはなかった。
「この揺らぎは、私たちの味方!」
紗季は思い切り旗を大きく振る。
揺れる布、重なる光、響く音楽。
たった七分とは思えない密度のステージが展開されていく。
そしてフィナーレ直前。咲来の最後の台詞が響いた。
「光は……私たちの心の中で生まれる!」
照明が一瞬全消灯し、次の瞬間、イヴァンが仕込んだ残光照明が淡く星空を浮かび上がらせる。
——体育館が、しんと静まり返った。
七分ぴったりで演目は終わった。
一瞬の沈黙。
そして——拍手。
最初は控えめだった拍手が、次第に大きくなり、ついには会場全体から温かな拍手が巻き起こった。中には立ち上がって拍手する生徒もいた。
「……やった」
舞台袖で健吾が泣きそうになりながら呟く。
充は拳をぎゅっと握ったまま、深く頷いた。
奇跡の七分は、確かに全員の心を繋いだ。
(第15話「文化祭ステージ・奇跡の7分」執筆 End)
朝から体育館特設ステージには次々と各クラスや部活動の発表が続いていた。観客席には保護者や生徒、外部からの見物客も多く、ざっと六百人を超えている。体育館は熱気に包まれていた。
清栄高校演劇再生プロジェクトの出番は午後の後半、最後から三番目。
本来の十七分公演のはずだったが、当日全体進行が押してしまい、運営から「最大七分以内に短縮してほしい」と急遽通達が入った。
「七分……!」
舞台袖で連絡を受けた充は、一瞬呆然とした。
「でも……まあ、想定してた変動範囲内だな」
凌太が冷静に答えた。
「即興部分はそもそも尺調整の余白だった。アドリブ対応で圧縮できる」
「曲も圧縮版のテンポアップパターン作ってある」
イヴァンもすぐに照明プログラムを確認する。
「短縮モード、対応可能」
「紗季、衣装の演出部分、短縮版で動ける?」
「もちろん! 切り替えプランAだね!」
「全員、リハで確認した通りでいく。——落ち着いていこう!」
充が皆を見渡すと、全員が力強く頷いた。
そして、開演のベルが鳴った。
七分間の勝負が始まる。
最初の朗読が始まると同時に、会場の空気がピリッと引き締まった。
「ここは光を失った古い劇場。だが、私たちは探す——“光”を——」
咲来の静かな声に、体育館のざわつきがスッと静まっていく。
イヴァンが即座に照明を切り替え、柔らかなサイド光が揺らぐ布幕を包み込む。光ファイバーの糸がふわりと輝き、まるで夜明けの波のような揺らぎが生まれる。
凌太のアップテンポにアレンジした伴奏が入り、演者たちが舞台中央に躍り出た。
——観客の目が一斉に釘付けになった。
衣装が光る。
布が揺れる。
音と照明が同期して波打つ。
そして次々に観客席から驚きのささやきが漏れる。
「えっ……あの衣装、光ってる……」
「揺れてる光が綺麗……」
予定通り、“観客の反応”が自然と誘導されていく。
「次、旗演出入るぞ!」
舞台袖から充が小声で確認を飛ばすと、紗季が大きく頷き、二本の布旗を高く掲げる。旗がリズムに合わせて揺れ始めた瞬間、紗季は一瞬、あのプレ公演の突風事故の記憶が脳裏をよぎった。——けれど、もう怖くはなかった。
「この揺らぎは、私たちの味方!」
紗季は思い切り旗を大きく振る。
揺れる布、重なる光、響く音楽。
たった七分とは思えない密度のステージが展開されていく。
そしてフィナーレ直前。咲来の最後の台詞が響いた。
「光は……私たちの心の中で生まれる!」
照明が一瞬全消灯し、次の瞬間、イヴァンが仕込んだ残光照明が淡く星空を浮かび上がらせる。
——体育館が、しんと静まり返った。
七分ぴったりで演目は終わった。
一瞬の沈黙。
そして——拍手。
最初は控えめだった拍手が、次第に大きくなり、ついには会場全体から温かな拍手が巻き起こった。中には立ち上がって拍手する生徒もいた。
「……やった」
舞台袖で健吾が泣きそうになりながら呟く。
充は拳をぎゅっと握ったまま、深く頷いた。
奇跡の七分は、確かに全員の心を繋いだ。
(第15話「文化祭ステージ・奇跡の7分」執筆 End)



