九月中旬、被服室。
文化祭まで残り十日。衣装班の作業は追い込みのピークを迎えていた。
「次! 袖のフリル、あと三枚! 光ファイバーは片面だけ縫い留め! 通電チェック済みのやつから順に!」
紗季がミシン前で声を張り上げる。その顔は緊張と集中に満ちているが、目はしっかりと笑っていた。
机の上には色とりどりの布地が山のように積まれ、何台ものミシンがフル稼働している。ミシン針の軽快なリズムが室内に響き、アイロンの蒸気がモクモクと上がっていた。
「はい次いくよ! 糸交換手伝う!」
知香が手際良くミシンの糸巻きを交換していく。彼女は今回、進行管理だけでなく、縫製のサポートまで担当していた。
「やっぱり人手が多いと早いね!」
「生徒会からの助っ人、ほんとに助かるわ……!」
紗季が顔を上げると、文化祭実行委員の後輩たちが次々と裁断された布を受け取っていく。
「でもさー紗季先輩、このデザインほんと凝ってるよね。袖が三層重ねでしかも光るとか、普通じゃ考えつかないよ」
「だって、普通じゃつまんないじゃん!」
紗季は少しだけ得意げにウインクする。
その時だった。
——パチッ!
「え?」
突然、紗季の使っていたミシンから青白い火花が飛び散った。
「きゃっ!」
思わず紗季が身をのけぞる。ミシンはガタガタと異音を立てて停止した。
「紗季、大丈夫!?」
知香がすぐに駆け寄る。幸い怪我はなかったが、電源プラグの根本が熱を持っている。
「うわ、やば。無理に詰め込みすぎた……?!」
「過熱停止っぽいな。冷やせばたぶん復旧する」
知香が冷静に電源を切り、ミシンに扇風機を当てる。
「ごめん、また慌ててスピード上げすぎた……」
紗季がしょんぼりする。
「慌てん坊は長所でもあるんだけどね」
知香が微笑んだ。
「私、こういう時いつも慌てて失敗しちゃうんだよね……」
紗季は少し肩を落としたが、知香は優しく言葉を続けた。
「でもさ、その慌てて作った“失敗の痕”が、この前の新デザインに繋がったでしょ?」
「……うん、そうだった」
紗季は小さく微笑む。
「大丈夫。ちゃんと間に合うから」
知香は進行表をチラリと確認し、軽く親指を立てて見せた。
「進捗率、現時点で83%。助っ人増員も効いてるし、今夜の分まで乗り切れば安全圏に入るよ」
「すごいな知香ちゃん、ほんとに“縁の下の女神”だね!」
紗季が笑顔で言うと、知香も照れたように笑った。
その後、再稼働したミシンは順調に動き続け、衣装は次々と仕上がっていった。
作業の合間、シェイアンがふらりと被服室を覗きに来た。完成間近の光ファイバー入り衣装を手に取ると、布の柔らかな揺れに目を細めた。
「……いい仕上がりだね」
「シェイアンくんが布地アドバイスくれたおかげだよ!」
紗季が満面の笑みで答えた。
「揺らぎを味方につけた衣装。照明と音楽が重なれば、光は観客の心の中で生まれる」
「そうだよね……!」
紗季はますます自信を取り戻していった。
その夜、全ての衣装が完成した瞬間、被服室に自然と拍手が起きた。
「終わったぁーー!!」
「お疲れ様でした!!」
歓声の中、誰よりも嬉しそうに跳ね回ったのは紗季だった。
完成した衣装ラックの前で、紗季はみんなの笑顔を見渡して胸が熱くなった。
「よし! あとは舞台に立つみんなが最高の光を放てるように、衣装の“心臓”として支えるぞ!」
その言葉に、知香も深く頷いた。
——文化祭公演への準備は、確実に前進していた。
(第14話「笑顔とハサミと火花」執筆 End)
文化祭まで残り十日。衣装班の作業は追い込みのピークを迎えていた。
「次! 袖のフリル、あと三枚! 光ファイバーは片面だけ縫い留め! 通電チェック済みのやつから順に!」
紗季がミシン前で声を張り上げる。その顔は緊張と集中に満ちているが、目はしっかりと笑っていた。
机の上には色とりどりの布地が山のように積まれ、何台ものミシンがフル稼働している。ミシン針の軽快なリズムが室内に響き、アイロンの蒸気がモクモクと上がっていた。
「はい次いくよ! 糸交換手伝う!」
知香が手際良くミシンの糸巻きを交換していく。彼女は今回、進行管理だけでなく、縫製のサポートまで担当していた。
「やっぱり人手が多いと早いね!」
「生徒会からの助っ人、ほんとに助かるわ……!」
紗季が顔を上げると、文化祭実行委員の後輩たちが次々と裁断された布を受け取っていく。
「でもさー紗季先輩、このデザインほんと凝ってるよね。袖が三層重ねでしかも光るとか、普通じゃ考えつかないよ」
「だって、普通じゃつまんないじゃん!」
紗季は少しだけ得意げにウインクする。
その時だった。
——パチッ!
「え?」
突然、紗季の使っていたミシンから青白い火花が飛び散った。
「きゃっ!」
思わず紗季が身をのけぞる。ミシンはガタガタと異音を立てて停止した。
「紗季、大丈夫!?」
知香がすぐに駆け寄る。幸い怪我はなかったが、電源プラグの根本が熱を持っている。
「うわ、やば。無理に詰め込みすぎた……?!」
「過熱停止っぽいな。冷やせばたぶん復旧する」
知香が冷静に電源を切り、ミシンに扇風機を当てる。
「ごめん、また慌ててスピード上げすぎた……」
紗季がしょんぼりする。
「慌てん坊は長所でもあるんだけどね」
知香が微笑んだ。
「私、こういう時いつも慌てて失敗しちゃうんだよね……」
紗季は少し肩を落としたが、知香は優しく言葉を続けた。
「でもさ、その慌てて作った“失敗の痕”が、この前の新デザインに繋がったでしょ?」
「……うん、そうだった」
紗季は小さく微笑む。
「大丈夫。ちゃんと間に合うから」
知香は進行表をチラリと確認し、軽く親指を立てて見せた。
「進捗率、現時点で83%。助っ人増員も効いてるし、今夜の分まで乗り切れば安全圏に入るよ」
「すごいな知香ちゃん、ほんとに“縁の下の女神”だね!」
紗季が笑顔で言うと、知香も照れたように笑った。
その後、再稼働したミシンは順調に動き続け、衣装は次々と仕上がっていった。
作業の合間、シェイアンがふらりと被服室を覗きに来た。完成間近の光ファイバー入り衣装を手に取ると、布の柔らかな揺れに目を細めた。
「……いい仕上がりだね」
「シェイアンくんが布地アドバイスくれたおかげだよ!」
紗季が満面の笑みで答えた。
「揺らぎを味方につけた衣装。照明と音楽が重なれば、光は観客の心の中で生まれる」
「そうだよね……!」
紗季はますます自信を取り戻していった。
その夜、全ての衣装が完成した瞬間、被服室に自然と拍手が起きた。
「終わったぁーー!!」
「お疲れ様でした!!」
歓声の中、誰よりも嬉しそうに跳ね回ったのは紗季だった。
完成した衣装ラックの前で、紗季はみんなの笑顔を見渡して胸が熱くなった。
「よし! あとは舞台に立つみんなが最高の光を放てるように、衣装の“心臓”として支えるぞ!」
その言葉に、知香も深く頷いた。
——文化祭公演への準備は、確実に前進していた。
(第14話「笑顔とハサミと火花」執筆 End)



