「たとえばさ……」
 凌太が肉をひっくり返しながら、煙越しに話し始めた。
 「予定通りの完璧な舞台もいいけどさ、もし観客の反応そのものを舞台の一部に組み込めたらどう?」
 「観客の反応を?」
 倫子が目を丸くする。
 「そう。途中で予想外のことが起きても、その瞬間に観客と一緒に作る演出ができたらさ。アドリブじゃなくて、そもそも“余白”を設計しとくの」
 「それって……インタラクティブ演劇みたいなもの?」
 咲来が食いつく。
 「まさにそれ!」
 「でも、それってかなり勇気いるよね……?」
 紗季が苦笑した。
 「まあな。でも俺たち、もう怖がっても仕方ないだろ? 突風が吹いても、旗を振って乗り切った紗季の勇気が、まさにそれだったと思うぜ?」
 その言葉に紗季は思わず頬を赤らめた。
 「う、うん……ありがと」
 祐貴がうなずく。
 「実際、演出プランの“可変余白”を認めれば、次の文化祭公演でも柔軟に対応できる。観客層が若干違うし、注目度も上がるだろうからな」
 「即興対応力が必要だな……面白いけど、怖い。でもワクワクする」
 知香がタブレットにメモを取りながら呟く。
 「イヴァン、照明もそういう柔軟運用にできそう?」
 充が尋ねると、イヴァンは少し考え込んだ後にコクリと頷いた。
 「可能。新しい配線案、考えておく」
 「シェイアン、美術セットも?」
 「うん。崩れても補正できる“破綻の美”デザインを入れてみる」
 「“破綻の美”! かっこいいなそれ!」
 倫子が食いつき、全員がどっと笑う。
 「じゃあ決まりだ。次の文化祭公演は“失敗さえも光に変える”演出を作る」
 充の声に、みんなが力強く頷いた。
 バーベキューの煙が高く空に昇る頃、彼らの表情にはもう迷いはなかった。失敗を抱えたまま、それを糧にして一歩踏み出した新しいスタートだった。
(第11話「再起のバーベキュー会議」執筆 End)