「明日までに間に合うのかって……」
紗季の声はだんだん小さくなり、ついには唇を噛み締めてうつむいた。
舞台の照明の破片が、夕暮れの光に乱反射してキラキラと冷たく光っている。
イヴァンがその破片を黙々と片付け始めた。誰よりも冷静でいる彼の背中に、充が声をかける。
「イヴァン、修理、どうだ?」
イヴァンは一瞬考えてから、しっかりと顔を上げた。
「完全には無理。でも、臨時の固定ならできる。予備部品を転用する」
「リスクは?」
「天候次第。風速五メートル以上なら、危険」
凌太が唸る。
「明日、またこんな突風が吹いたらアウトってわけか」
充は深く息を吐いた。
「……紗季」
顔を伏せたままの紗季に、充が静かに声をかけた。
「お前のせいじゃない。これは皆の課題だ。俺も確認甘かったし、スケジュール詰めすぎた」
紗季は目を潤ませたまま、か細く首を横に振った。
「でも、私、こういう時いつも慌てちゃうんだ。衣装の時も、針を折ったり、布を焦がしたり……結局みんなに迷惑かけて……」
充はゆっくりと紗季の肩に手を置いた。
「迷惑なんて思ってない。むしろ、お前がいなきゃここまで衣装も進んでない。失敗も含めて、お前の挑戦が今のデザインを生んだんだろ?」
その言葉に、紗季は顔を上げる。目の縁が赤いままだったが、かすかに口元が緩んだ。
「……うん……ありがとう」
「それに——」
凌太がにやっと笑って続けた。
「失敗も舞台のスパイスだぜ。もし明日、照明がぶっ壊れても、即興で乗り切ってやるさ」
「そんな無茶言わないでよ!」
紗季が慌てて突っ込み、一同に笑いが戻った。
「イヴァン、応急処置、頼む」
「了解」
「俺も手伝う!」
凌太が工具箱を抱えて走り出した。
シェイアンはそんな皆のやり取りを静かに眺めていた。やがて、ぽつりと呟く。
「失敗を抱えたままでも……舞台は進む。いい光景だ」
誰もがそれに頷いた。ステージという場所は、完璧でなくとも進み続ける場所なのだと、全員が肌で理解し始めていた。
(第9話「サマー・プレ公演前夜」執筆 End)
紗季の声はだんだん小さくなり、ついには唇を噛み締めてうつむいた。
舞台の照明の破片が、夕暮れの光に乱反射してキラキラと冷たく光っている。
イヴァンがその破片を黙々と片付け始めた。誰よりも冷静でいる彼の背中に、充が声をかける。
「イヴァン、修理、どうだ?」
イヴァンは一瞬考えてから、しっかりと顔を上げた。
「完全には無理。でも、臨時の固定ならできる。予備部品を転用する」
「リスクは?」
「天候次第。風速五メートル以上なら、危険」
凌太が唸る。
「明日、またこんな突風が吹いたらアウトってわけか」
充は深く息を吐いた。
「……紗季」
顔を伏せたままの紗季に、充が静かに声をかけた。
「お前のせいじゃない。これは皆の課題だ。俺も確認甘かったし、スケジュール詰めすぎた」
紗季は目を潤ませたまま、か細く首を横に振った。
「でも、私、こういう時いつも慌てちゃうんだ。衣装の時も、針を折ったり、布を焦がしたり……結局みんなに迷惑かけて……」
充はゆっくりと紗季の肩に手を置いた。
「迷惑なんて思ってない。むしろ、お前がいなきゃここまで衣装も進んでない。失敗も含めて、お前の挑戦が今のデザインを生んだんだろ?」
その言葉に、紗季は顔を上げる。目の縁が赤いままだったが、かすかに口元が緩んだ。
「……うん……ありがとう」
「それに——」
凌太がにやっと笑って続けた。
「失敗も舞台のスパイスだぜ。もし明日、照明がぶっ壊れても、即興で乗り切ってやるさ」
「そんな無茶言わないでよ!」
紗季が慌てて突っ込み、一同に笑いが戻った。
「イヴァン、応急処置、頼む」
「了解」
「俺も手伝う!」
凌太が工具箱を抱えて走り出した。
シェイアンはそんな皆のやり取りを静かに眺めていた。やがて、ぽつりと呟く。
「失敗を抱えたままでも……舞台は進む。いい光景だ」
誰もがそれに頷いた。ステージという場所は、完璧でなくとも進み続ける場所なのだと、全員が肌で理解し始めていた。
(第9話「サマー・プレ公演前夜」執筆 End)



