その日から、充と咲来は放課後になると、この屋外劇場に通うようになった。錆びた扉の鍵は市の管理課から簡単に借りることができた。どうせ取り壊す予定の施設だ。市の職員も、まさか高校生が真剣に何かを始めるとは思っていないらしい。
だが、二人の間ではすでに明確な目標が生まれていた。劇場の蘇生。そして、その舞台で人を魅了する新しい物語を届けることだ。
「やっぱり、まずは全体の構造を確認したいな」
咲来は、古びた観客席を歩きながら言った。足元の石段に苔が生えて滑りやすい。
「安全面も大事だよね」
充は頷きながら、ステージ袖の設備を確認していた。舞台の裏手には古い配電盤があり、照明の昇降リフトらしき装置もあったが、動く気配はない。どれも錆びついている。
「ここ、昔は夏祭りのイベントで使ってたらしいよ。父さんが言ってた」
「じゃあ、結構大きなイベントだったんだね」
「うん。俺、小さい頃に一度だけここで芝居を観たんだ。あの時の光景が今も焼き付いてる。たぶんそれで——」
充は少し照れたように笑った。
「たぶんそれで、こんな無茶なこと言い出してるんだと思う」
咲来は静かに微笑んだ。その表情には、彼の情熱を肯定する柔らかな強さがあった。
「でもさ、脚本だけじゃダメだよね。音楽も必要だし、衣装も、舞台美術も。裏方も必要。全部、二人じゃ無理だよ」
咲来の指摘に、充は大きく頷いた。
「だから、仲間を集めよう」
その言葉は、この春から始まる大きな挑戦の宣言だった。
翌日から、充のスカウト作戦が始まった。まず目をつけたのは、学園祭の準備で名前をよく聞く数人の生徒たちだった。彼らはすでに何かの才能を発揮していた。
最初に狙いを定めたのは、音楽室にいる凌太だった。
「おーい、凌太!」
放課後の音楽室に顔を出すと、電子ピアノの前で凌太が指を躍らせていた。即興のメロディが軽やかに流れている。
「なんだ、充? 邪魔すんなよ、今いい感じなんだ」
「その才能、俺に貸してほしい」
唐突すぎる言葉に、凌太は手を止めて顔をしかめた。
「は?」
「屋外劇場、蘇らせるんだ。新しい舞台を作りたい。そのために音楽が欲しい。お前の音楽が」
凌太はしばらく充をじっと見たあと、にやりと笑った。
「面白そうじゃん。でも、俺、こう見えて計画立てるの好きだからな。全部行き当たりばったりじゃ困るぜ?」
「もちろん! 計画は必要だ」
充は思わず拳を握った。これで音楽担当は確保だ。
次は衣装だ。向かったのは被服室。そこで待っていたのは、裁縫部の紗季だった。明るい笑顔が特徴の彼女は、慌ただしくミシンを動かしていた。
「紗季、ちょっといい?」
「充くん! 珍しいね、こんなとこに来るなんて。どしたの?」
「衣装、作ってくれない?」
「……え?」
「劇場で舞台をやりたいんだ。多文化ライブショーって感じの、衣装で魅せる舞台を作りたい。紗季のセンス、絶対必要だと思って」
紗季はぱちぱちと目を瞬かせた後、満面の笑みになった。
「うわぁ、面白そう! もちろんやる! だけど、私、ちょっと慌てん坊だから、失敗したらごめんね?」
「失敗も含めて面白い舞台にしよう」
そう言うと、紗季は嬉しそうにミシンの針を止めた。
だが、二人の間ではすでに明確な目標が生まれていた。劇場の蘇生。そして、その舞台で人を魅了する新しい物語を届けることだ。
「やっぱり、まずは全体の構造を確認したいな」
咲来は、古びた観客席を歩きながら言った。足元の石段に苔が生えて滑りやすい。
「安全面も大事だよね」
充は頷きながら、ステージ袖の設備を確認していた。舞台の裏手には古い配電盤があり、照明の昇降リフトらしき装置もあったが、動く気配はない。どれも錆びついている。
「ここ、昔は夏祭りのイベントで使ってたらしいよ。父さんが言ってた」
「じゃあ、結構大きなイベントだったんだね」
「うん。俺、小さい頃に一度だけここで芝居を観たんだ。あの時の光景が今も焼き付いてる。たぶんそれで——」
充は少し照れたように笑った。
「たぶんそれで、こんな無茶なこと言い出してるんだと思う」
咲来は静かに微笑んだ。その表情には、彼の情熱を肯定する柔らかな強さがあった。
「でもさ、脚本だけじゃダメだよね。音楽も必要だし、衣装も、舞台美術も。裏方も必要。全部、二人じゃ無理だよ」
咲来の指摘に、充は大きく頷いた。
「だから、仲間を集めよう」
その言葉は、この春から始まる大きな挑戦の宣言だった。
翌日から、充のスカウト作戦が始まった。まず目をつけたのは、学園祭の準備で名前をよく聞く数人の生徒たちだった。彼らはすでに何かの才能を発揮していた。
最初に狙いを定めたのは、音楽室にいる凌太だった。
「おーい、凌太!」
放課後の音楽室に顔を出すと、電子ピアノの前で凌太が指を躍らせていた。即興のメロディが軽やかに流れている。
「なんだ、充? 邪魔すんなよ、今いい感じなんだ」
「その才能、俺に貸してほしい」
唐突すぎる言葉に、凌太は手を止めて顔をしかめた。
「は?」
「屋外劇場、蘇らせるんだ。新しい舞台を作りたい。そのために音楽が欲しい。お前の音楽が」
凌太はしばらく充をじっと見たあと、にやりと笑った。
「面白そうじゃん。でも、俺、こう見えて計画立てるの好きだからな。全部行き当たりばったりじゃ困るぜ?」
「もちろん! 計画は必要だ」
充は思わず拳を握った。これで音楽担当は確保だ。
次は衣装だ。向かったのは被服室。そこで待っていたのは、裁縫部の紗季だった。明るい笑顔が特徴の彼女は、慌ただしくミシンを動かしていた。
「紗季、ちょっといい?」
「充くん! 珍しいね、こんなとこに来るなんて。どしたの?」
「衣装、作ってくれない?」
「……え?」
「劇場で舞台をやりたいんだ。多文化ライブショーって感じの、衣装で魅せる舞台を作りたい。紗季のセンス、絶対必要だと思って」
紗季はぱちぱちと目を瞬かせた後、満面の笑みになった。
「うわぁ、面白そう! もちろんやる! だけど、私、ちょっと慌てん坊だから、失敗したらごめんね?」
「失敗も含めて面白い舞台にしよう」
そう言うと、紗季は嬉しそうにミシンの針を止めた。



