「実際に舞台で宣伝するというよりも、お店の“物語”を自然に登場させてお客さんの心に残す——すごくいいアイデアだわ」
 奥さんは楽しげに微笑んだ。知香もすかさず畳みかける。
 「さらに、公演当日は劇場前の広場で商店街ブースも出す予定です。お菓子の販売コーナーを設けて、劇を観に来たお客様が帰りに立ち寄れるようにできます」
 「まあまあ、それはいいわね!」
 「お店の紹介カードも無料で配布します。劇場と商店街が一緒に盛り上がれば、長く続くイベントにも育つかもしれません」
 知香は用意してきた提案書を丁寧に差し出す。その真面目さと誠実な眼差しに、奥さんは心を動かされたようだった。
 「うん……わかったわ。応援する。微力だけど協賛金、出させてもらうわ」
 「ありがとうございます!」
 二人は深々と頭を下げた。
 「うん、これはいいスタートだね!」
 店を出た後、倫子が笑顔でガッツポーズを取る。知香も小さく微笑んだ。
 「次、行こうか」
 「うん! テンション上がってきたー!」
 その後も二人は次々と店舗を回った。喫茶店、古着屋、花屋、時計修理店、昔ながらの駄菓子屋——それぞれの店にそれぞれの物語があり、倫子は即興でその物語を脚本の一部に組み込むアイデアをその場で提示していった。
 「この花屋さんなら、舞台のセットに季節の花を提供してもらえますか? 終演後に花束を観客に配ったら、素敵な余韻が残ります!」
 「駄菓子屋さんなら、劇の子どもキャラが“この店で初めてラムネを買った”って台詞入れられますよ!」
 「時計修理店のご主人の話、すごく素敵だったから、時間が止まった劇場に“新しい光を刻む時計職人の役”作りましょう!」
 どの店主も最初は驚いていたが、最終的には倫子のアイデアと知香の冷静な説明の合わせ技に引き込まれていった。
 夕方には、予定していた十数軒のうち八割が協賛を表明してくれた。
 アーケードの出口まで戻ってきた時、二人は足を止めて顔を見合わせた。
 「よし……」
 「勝ったな」
 思わず二人で笑い合う。
 「……やっぱり物語の力ってすごいね」
 倫子がしみじみ呟いた。
 「うん。“観てもらう”だけじゃなく、“自分も参加してる”って感じてもらえるのが強いのよ」
 知香も微笑む。
 ——こうして、限りなくゼロ円に近かったスポンサー探しは、大きな収穫を手にする結果となった。
(第8話「予算ゼロ円のスポンサー探し」執筆 End)