資料室の会議が終わった後、充は一人で再び屋外劇場へ足を運んだ。夕暮れの空は薄紫色に染まり、ステージに差し込む光が長い影を作っていた。
 芝生の端には、いつものようにイヴァンが照明機材の確認をしている。その隣では紗季とシェイアンが新しい衣装の布合わせを試していた。咲来と倫子は観客席で台本の草稿をめくり、知香は一人、タブレットで進行表と予算表を突き合わせている。
 ——全員が自分の役割を果たしている。だが、だからこそプレッシャーも高まっていた。
 「なあ、みんな。ちょっといい?」
 充が声をかけると全員が手を止めて顔を上げた。
 「半年間の進行表ができた。ぶっちゃけ、スケジュールは……かなりハードだ」
 そう言って充は、凌太が作ったタイムラインのコピーを広げた。各自が真剣な眼差しでそれを覗き込む。
 「うわ……予想以上にギッチギチだね」
 紗季が苦笑する。
 「ま、想定内ではあるけどな」凌太が肩を竦める。
 「ミスが連鎖したら即アウトって感じだな」
 知香が冷静に言った。
 「でも、やるんだよね?」
 咲来が優しく笑う。誰も反論しなかった。
 「もちろん!」
 充が力強く頷く。
 「俺たちが始めたんだ。最後までやりきる」
 その言葉に、皆の顔が一段と引き締まった。
 その夜、資料室の奥で祐貴がこっそり一人、進行表のデータを修正していた。最悪パターンの非常用日程や、スポンサー未決定時の予備プラン、万が一の雨天中止案——正式版の提出用資料には表面化させない“保険”のプランだ。
 「さて……万が一全部ぶっ壊れた時用の責任逃れ策も完成、と」
 ぽつりと呟いて、お茶を一口啜る祐貴。その顔は飄々としていたが、誰よりも真剣だった。
 「このチームが全力で走るなら、裏でバランス取るのが俺の役目だもんな」
 照明の消えかけた資料室で、たった一人の“影の外交官”が静かに微笑んだ。
(第6話「計画表に潜む爆弾」執筆 End)