五月の終わり。梅雨入り前の蒸し暑さがじわりと身体にまとわりつく午後。学校の資料室の奥まった隅に、充、凌太、祐貴の三人が集まっていた。今日は半年間の進行表を作成する重要会議だ。
 「おーい凌太、本当にこれが君の逆算スケジュールか?」
 祐貴が半ば呆れた声を出す。凌太は白い模造紙をドンとテーブルに広げた。そこには緻密すぎるほど細かく、しかし大胆に詰め込まれたタイムラインが描かれていた。
 「そう。文化祭の仮公演は九月末に決め打ち。そこまでに衣装製作、音響調整、美術セット、スポンサー追加交渉、市民広報、リハーサル三回、さらに緊急リカバリー日も設けてある」
 「……たしかに理論上は完璧だが、余裕ゼロだぞこれ」
 充が眉をひそめる。凌太は悪びれず胸を張る。
 「舞台はスリルだよ、スリル。余裕を持たせると油断が出る」
 「いや、逆に危険だろ」
 祐貴は腕を組み、さらに細部を見つめた。日付ごとに「最悪パターン回避日」「予備予備日」など一応はリカバリーも仕込んであるが、それでもギリギリ感が否めない。
 「まあ、でも市からは“明確な進捗表”を求められてるしな。これくらいインパクトあるほうが役人は納得するかもしれん」
 祐貴がニヤリと笑った。
 「リスク管理は、俺が責任転嫁するから大丈夫さ」
 「出たよ、祐貴の“水に流す”技」
 充が苦笑した。
 「冗談抜きで、最大の爆弾は天候だな」
 祐貴が現実的な指摘を入れる。
 「そうなんだよな……屋外劇場ってだけで不安定要素が多い」
 「台風、梅雨、夏の突発豪雨……天気次第で一発アウトだ」
 凌太も流石にそこは苦笑を浮かべる。
 「天気ばかりは神頼みしかないか……」
 充が天井を見上げてため息をつくと、資料室の古びた蛍光灯がジジジ……と微妙な音を立てた。
 「でも、このスケジュールでいくしかない。俺たちにはもう“待った”はないからな」
 「よし、じゃあこの進行表で正式版を作って、次の市への進捗報告に出そう」
 祐貴が確認のまとめを入れると、充も凌太も大きく頷いた。
 「半年で勝負を決める。……それが今の俺たちの舞台だ」
 模造紙のタイムラインを見下ろしながら、三人は静かに覚悟を決めた。