「オーガンジーを重ねる……そうか、その発想はなかったなあ」
 紗季はメモ帳を取り出し、夢中で書き込み始めた。布の重ね方、波の入れ方、配色のバランス……イメージが一気に膨らんでいく。
 「でもさ……私、いつも慌ててミスするから、本番に間に合わなくなったらどうしようって、ちょっと不安で」
 紗季が苦笑まじりに呟くと、シェイアンは静かに首を横に振った。
 「失敗するのは、挑戦してる証拠。完璧を求めるより、失敗の痕跡すらデザインに取り込めばいい」
 「え?」
 「ほら、例えば——」
 シェイアンは端切れ布を手に取ると、そこにわざと歪な折り目を作りながら言った。
 「こうやってランダムなシワを入れると、自然光の当たり方で予想外の陰影が生まれる。むしろ失敗が舞台での独特の輝きになる」
 「うわぁ……それ、すごい!」
 紗季は目を輝かせてそのサンプル布をじっと見つめた。
 「なるほど、即興の光ってこういうことかぁ……。でも、私一人だったら思いつけなかったよ。ありがとう!」
 「僕も……こうしてアイデアを混ぜ合えるのは、楽しい」
 シェイアンが微かに笑う。決して派手ではないその表情に、紗季は少しだけ胸が熱くなった。
 「私、もっと頑張るね! 本番までに最高の衣装作ってみせる!」
 「うん」
 被服室の窓から差し込む午後の陽射しが、二人を柔らかく照らしていた。
 数日後、充たち全員が屋外劇場に集まった。今日の進捗報告は衣装班の番だった。
 紗季が大きな布見本を広げると、皆が息を呑んだ。
 「うわ、これ……太陽だ」
 凌太が素直に感嘆の声を上げた。
 「ほんとに、光が溢れてるみたい……」
 咲来もゆっくり頷く。
 紗季は少し照れながら説明した。
 「オーガンジーを何層か重ねて、揺らぎが出るようにしてみたの。それと、失敗しちゃった折り目も活かして模様にしちゃった!」
 「なるほど……即興アレンジだな。いいね!」
 充が感心して言うと、シェイアンが後ろから静かに補足する。
 「イヴァンの照明と合わせれば、もっと輝くはず」
 イヴァンも無言でコクリと頷いた。
 「これぞ多文化ライブショーだな。色んなアイデアが融合してる」
 凌太がニカッと笑う。
 ——仲間たちの化学反応は、着実に新しい舞台の“光”を育てつつあった。
(第5話「衣装に宿る太陽」執筆 End)