それからの数日間、イヴァンはほとんど毎日のように倉庫に通って作業を続けた。誰よりも早く登校し、放課後もひたすら照明機材を分解・整備し、錆を落とし、配線を新品に交換していく。
 充は何度もその様子を見に行ったが、イヴァンはいつも黙々と作業に没頭していた。
 「……まるで機械と心が通じてるみたいだな」
 傍らで眺めていた凌太がぽつりと言った。
 「すごいよな……集中力が桁違いだよ。俺、三十分もたない」
 「ていうか、そもそも配線図読めないからな。俺も」
 凌太が苦笑した。そこに咲来と紗季もやって来た。
 「イヴァン、すごい集中だね。声かけても全然気づかないよ」
 「うん。多分、自分の中に舞台があるんだろうな」
 充が静かに呟く。彼には確信があった。イヴァンはすでに自分の役割を見つけている。
 その日の夕暮れ、ようやくイヴァンが手を止めた。
 「……できた」
 整備し終えた照明機材は、どれもピカピカに生まれ変わっていた。まるで新品のようだ。
 「すげえ……!」
 凌太が思わず口にする。
 「試していい?」
 イヴァンが確認すると、充は大きく頷いた。
 「もちろん!」
 コードを繋ぎ、仮設スイッチを押すと、舞台上のライトが一斉に灯った。まぶしくも柔らかい光が、夕暮れの屋外劇場を照らす。まだ満開ではない新緑が、淡く光に染まった。
 「……うわぁ……」
 紗季が小さく感嘆の声を漏らす。
 「やっぱり、光が入るとステージって違うね……」
 咲来も見上げながら呟いた。
 充はその光景を胸に刻みながら、静かに深呼吸した。これが——これこそが、舞台の“心臓”だ。
 イヴァンが小さく、ほんの少しだけ微笑んだ。
 「ここ……悪くない」
 そのささやかな笑顔に、仲間たちは思わず顔を見合わせた。
 「よし、イヴァン正式加入だな!」
 充が手を差し出すと、イヴァンは少し迷ってから、その手を握った。固く、確かな握手だった。
 こうして照明担当が加わり、劇場再生チームはまた一段と厚みを増した。
(第4話「照明倉庫と無口な転校生」執筆 End)