動揺した様子で頭が回っていないのだろう。

私に挨拶するわけでもなく、焦ったまま「先ほどのチョコレートケーキの注文なのですが……」と話を続けていく。

「今日はオレンジを入荷できなかったみたいで、別のメニューに変更かキャンセルになってしまうのですが……」

三原くんの言葉に重ねるように奥さんがキッチンから顔を出す。

「ごめんね、茅音ちゃん。今日はケーキを作れなくて、また今度食べてくれると嬉しいわ」

私が笑顔で「大丈夫ですよ」と返事をすると、奥さんは安心したように微笑んでキッチンに戻っていく。

ケーキより、今の私の問題は目の前の三原くんである。

しかし、三原くんの反応的に社内の人間にバレたくなかったのは確実だろう。



「三原くん。チョコレートケーキをシフォンケーキに変更って出来るかな」



私の言葉に三原くんは「可能です」と返事してくれる。



「じゃあ、シフォンケーキで。それと……三原くんがここで働いていること誰にも言わないから大丈夫」



「え?」



「まずうちの会社は副業OKだし問題ないのと、三原くんが隠しておきたいことを言いふらす趣味はないし。あ、でも、このカフェはお気に入りだからこれからも使わせて貰えると助かるかな」



私の言葉に三原くんは驚いて顔をしていたので、私は少しでも安心して貰えるように笑った。