店長が店の奥のキッチンに戻った後、私はテーブルに資格の参考書を開いた。

「さ、頑張りますか」

私が集中していると、店長や奥さんは分かっているのかいつも何も言わずに頼んだものをテーブルにそっと置いてくれる。

そんな優しさもこのカフェが大好きな理由で。

しかし、今日は何故か声をかけられた。


「お客様、こちらの注文ですが……」


問題に集中している時で、顔を上げるのが数秒ほど遅れてしまう。

だからだろうか。

問題の集中から抜け出せていないからだろうか。

まるで目の前の光景が夢のように感じてしまう。



「え」



目の前にはカフェの店員用のエプロンをつけた三原 惟吹が立っていた。

しかし、私より目の前の三原くんの方が驚いていた。


「平塚さん……!」


それが驚きなのか嫌悪なのかは分からなかったが、三原くんが焦っていることだけは確かだった。