白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



 心にも思ってなさそうな褒め言葉を口にしながら剣先を軽々避けていた狗神が、ぴたりと動きを止めた。

 奇妙に思ったものの、紫陽は大きく跳躍して正面から刀を振り下ろす。が……


「ぐっ」


 刀が男に届くかと思われたその直前。キィィンと甲高い音と共に、何かにはじき返された。

 痛い。

 加えた力がそのまま自分に跳ね返ってきたようだ。思いがけない衝撃に耐え切れず、刀から手を離してしまった。金属が地面に落ちる鈍い音が聞こえた。


「そろそろ飽きた。決着を付けよう」


 そう言った狗神は、今度は自分の番だと言うようにわずかに口角を上げた。


「うぐ……っ」

「人間というのはとかく脆いもの。少し力加減を間違えれば簡単に死ぬ。戦いには向かぬ体だ」


 苦しい。視界が歪み、力が抜けていく。

 耐えられず地面に膝をついた紫陽に、男は見下すような冷たい目を向ける。


「無駄な殺しをしたいわけではない。このまま大人しく帰ると言うなら見逃してやろうか」


 かすんでいく視界の中、それでも必死に狗神を睨みつけた。


「こと……わり……ます……」

「……そうか」


 目に宿した温度と同様に冷たい声。

 首を押さえながら、満足に空気を取り込めない苦し気な呼吸を繰り返す紫陽に、狗神は一歩一歩ゆっくり近付いてくる。

 すっと理解した。


(死ぬんだ。私は、ここで)