最恐の狗神様は、笑わない少女陰陽師を恋う。




 パンと手を叩き、にこにこ笑いながら残酷に言い切る母。そちらにちらりと目を向けたが、言葉を返すことはもう諦めた。


(狗神の怨みを買っては厄介……だなんて本気で思っているわけではないわね。私のことを体よく追い出す口実ができたと喜んでいるようにしか見えない)


 狗神には悪いが、紫陽に人質としての価値など皆無だ。この人たちは、紫陽がどれだけ痛めつけらようと、たとえ殺されることがあろうと痛くも痒くもないのだから。


(ああ、吐き気がする)


 紫陽はぎゅっと歯を食いしばる。

 目線を上げると、口元に笑みを浮かべた両親の顔が見えた。そこに娘に対して申し訳なく思ったり憐れんだりするような感情は少しも無い。

 かつて、どうにか愛してもらいたい、認めてもらいたいと求めてやまなかった人たち。今はもう何も感情がわかない。


「……かしこまりました。お父様、お母様」


 そう言って頭を下げた紫陽は、再び彼らの顔を見ようとはしなかった。