白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



 赤髪の妖は攻撃を収め、後方へ跳んだ。


「ちょっと油断しただけだ。すぐ仕留める」


 しかし紫陽は、既に赤髪の妖の言葉が耳に入らなくなっていた。

 振り返った先にあったその姿に、ごくりと唾を飲み込む。


(そうだ……。どうして気が付かなかったんだろう)


 あの夜出会ったあの妖が、そこにいた。

 沈みかけた陽の光を浴びた髪は、月光の下とはまた違った輝きを放っている。しかし、対峙しただけで圧倒されてしまうような霊力量は相変わらず。口元に浮かべた微笑が妙に蠱惑的で、ぼんやりしていると見入ってしまう。

 無意識に息を止めていた紫陽は、あの夜と同じようにまっすぐ刃を白銀の妖へと向けた。


「……貴方が、狗神だったのですね」


 この地にいて、ある程度実力者と思われる赤髪の妖が「主」と呼ぶ存在。

 それに、あの夜彼が見せたもう一つの獣のような姿などはまさに、狗神と聞いて想像される像そのものではないか。


「……これは驚いた」


 意外にも、狗神も紫陽のことを覚えていたようだ。眉をひそめ、臨戦態勢を解除しない赤髪の妖を軽く手で制した。


「また会ったな。刀使いの陰陽師」

「っ……」

「以前お前に会った場所はここからかなり離れているが……わざわざ何をしに来た?」

「……貴方を、祓いに」