「すご……い……」
幼い少年が母親の腕の中で、自分のいる状況を忘れたかのようにうっとりとした声で呟いた。
紫陽の繰り出す容赦のない斬撃は、回数を重ねても勢いが落ちる気配がない。
暗闇の中、何度も何度も響く金属音と断末魔。
気がつけばおぞましい生物は跡形もなく消え去っていた。
辺りに完全な沈黙がおりる。
「無事ですか」
刀を鞘に納めて振り返った紫陽の抑揚のない声に、身を寄せ合い息をつめていた親子ははっと顔を上げて彼女を見た。
それから慌てて立ち上がり、深く頭を下げる。
「危ないところをお助けいただきありがとうございました。ほら、あんたもお礼」
「あ、ありがとう」
「この辺りは危険な妖が多いので夜不用意に外へ出るのは止めた方がいいかと」
紫陽はにこりともしないで淡々とそう言う。
親子はそんな紫陽に少し気まずそうな顔をしながら、もう一度頭を下げた。母親はふらつきながら歩く子の背中を支えるようにしながら、夜の闇へと消えていく。
紫陽はその様子を黙って見送り、静かに息をついた。
(良かった。ちゃんと守りきれた)



