「だが一昨日、そんな狗神の元からこんな文が届いた」
「文? 狗神から、ですか……?」
眉をひそめずにはいられなかった。紫陽は不信感を抱きながら渡された手紙をそっと開き、ざっと目を通す。
そして無意識に息を止めていた。
(え……)
二度、三度、四度と何度も繰り返し文字を目で追う。
書いてあることの意味が理解できなかった。いや、何が書いてあるのかはわかるのだが、それを上手く受け取めることができなかった。
感情の出ない紫陽が明らかに狼狽えている様子を見て、父は一度ため息をついた後、その手紙の内容を改めて口にした。
「どうやら狗神は、お前を花嫁に所望しているらしい」
「意味が……わかりません……」
妖と陰陽師はいわば天敵同士だ。手紙を寄こしてくることから奇妙なのに、その上結婚の申込みなど……聞いたことがない。
戸惑いの表情を浮かべる紫陽に、母が扇を揺らしながら言う。
「花嫁という名目で人質をとる。人間の権力者同士でも昔からよくある話です。大方、涼風家の存在を恐れて策を打ったのでしょう」



