白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



「おい、誰だ手前ぇ」


 若い男の声。ハッとして声の方に目をやった瞬間、何か植物のつるのようなものが紫陽に向かって鋭く一直線に伸びてきた。

 紫陽は愛刀に手を掛け、振り向きざまに抜刀の勢いでつるを薙ぎ払う。


「ちっ」


 大きく舌打ちをした攻撃の主は、短い赤髪に浅黒い肌をした男の妖だった。目尻は垂れているのに瞳に宿る光は鋭く、まっすぐ紫陽を睨みつけている。


(強い)


 そこらにいる妖たちとは一線を画した霊力量に、戦い慣れた佇まい。ただ者ではない。

 だが。


(……けど、この妖が狗神ということはなさそう)


 強いのは確かだが、この赤髪の妖は恐らく紫陽と互角ぐらいだ。植物のつるを使った攻撃を連続で繰り出してくるが、十分にかわせている。少しずつではあるが距離も詰められていて、こちらの間合いに入れるのも時間の問題だろう。

 妖の王に名を連ねる者が、紫陽相手にこの程度のわけはない。

 そう、例えば……数日前の夜に出会った、白銀の長い髪が美しいあの妖。五大妖ならば、あれくらいには強いはず——。


 そんなことを思った、まさにその瞬間だった。


「お前が敵を仕留め損ねるなど珍しいな、(うるう)


 斜め後方から耳に届いた、低く静かで透き通るような声。

 背筋が伸びるような思いがした。今ちょうど思い出していた声だった。


「主」