父がうなずいた後ろで、母が面白くなさそうな表情を浮かべる。これで紫陽が少しでも答えに窮したら、その知識不足にたっぷりと嫌味をぶつけるつもりだったのだろう。
紫陽はそんなことを思いながら話しの続きを待つ。普段ろくに声を掛けようともしない娘をわざわざ自室に招き入れてまでする話。先ほどから考えているのだが全く予想ができない。
父は懐から折りたたまれた紙を取り出し、厳しい表情でそれを開いた。
「ではその五大妖のうち、狗神について知っていることはあるか?」
「狗神……。そうですね、ここからそう遠くない地に立派な城を構えているということくらいなら知っています。そしてその城下町で孤児や罪人など居場所のない人間を攫ってきて住まわせ、奴隷として扱っているのだという噂もありますね」
「そうだな、わたしもその程度の知識だ。奴は周囲との交流を好まず、あまり派手な行動をしない分五大妖の中でも謎が多い」
そこで言葉を切った父は、手に持っていた紙を床に置き、紫陽に渡した。



