夜の冷えた空気は、火照った身体を程よく冷まし、冷静な判断力を取り戻させてくれる。

 紫陽(しよ)は小さく息をついて、汗ばんだ手で剣を握り直した。


(一、二、三……十体といったところね)


 暗闇の中でうねうねと蛇のようにうごめく影。しかし普通の蛇と明らかに違うのは、刀の鞘五本分はありそうな太さと、大きな口から覗くびっしりと並んだ歯。

 ()()からじゅるりと舌なめずりのような音がすると、紫陽の後ろで震えていた親子の口から悲鳴が漏れ出た。


「ひっ」


 こんな気味の悪い見てくれの生き物が自分に襲い掛かろうとしているのだ。親子の反応は当然だ。

 大丈夫、私が何とかする。……そう笑って安心させてやれたら良かったのだが、残念ながら紫陽は多少感情が欠落している部分があるためそこまで気は回らない。


 まっすぐ剣を構えた紫陽は、自分の中の霊力を刃へ伝えるように集中させる。そして一瞬の後、迷いのない線で振り下ろした。

 一撃、また一撃と振るわれる剣は、確実に敵を捉える。

 攻撃を受けた生物は、数秒の間のたうち回るもすぐに動かなくなり、燃えて粉々になった灰が風で吹き飛ばされるように消えていく。