その日は、尊都と家でまったりしたり映画を見たりカフェでコーヒーをテイクアウトしてみたり、やりたかったことを満喫した。
そして夜ご飯は、尊都の要望でおめかしをし、夜景が映える高級レストランへ。
私は紺色のロング丈のワンピースをチョイスした。
フレアスカートの部分と腕の部分は透ける素材になっていて、とっても大人っぽい。
対して尊都も紺色のスーツを着ている。
スーツ姿は普段の仕事で見慣れてるつもりだったけど、改めて私のためだけに着たんだと思うとドキドキが止まらない。
「んー!美味しい……!」
「ふは、幸せそうな顔」
「だって、ほんとに幸せなんだもん!」
メニューは、すべて私と尊都の好物で固められていた。
それでいて飽きがこない計算された食のハーモニーに感嘆せざるを得ない。
うう、舌が肥えていく……本当に私、去年あんなにひどい生活してたんか⁉︎
そう思いたくなるほどに贅沢だ。
「さて、そろそろデザートかな」
「そうだね、すっごく楽しみ!」
美味しい筍を使ったバリグールをもきゅもきゅと食べながら頷く。
尊都の誕生日なのに私がものすっごく幸せだ。
でも尊都も嬉しそうだし、それがいいと言われればそうなんだろう。
だから私は思いっきり楽しんでいる。
そして食後、私は尊都を事前に予約していたサプライズブースに連れていった。
街の夜景が一望できるガラス張りの一室で、優しい音楽が流れる素敵な空間。
「見て、綺麗だね!」
「うん。とっても綺麗。ほらあれ、俺たちの屋敷じゃない?」
「ほんとだ!でっか!」
尊都が守ってきた街。
私が愛する街。
私たちが守った街。
それを見下ろしながら、しばらく穏やかな空気を楽しむ。
そして雰囲気もほぐれてきた頃、私は尊都に向き直り、バッグから包みを取り出した。
それを差し出すと、尊都は驚いたように目を見張る。
「はい、尊都。誕生日おめでとう」
「!……わざわざ買ってくれたの?」
「そうだよ。尊都にバレないように買うの大変だったんだから」
そう言って笑うと、尊都もつられて微笑んでくれた。
そしてそっと受け取り、小箱を開く。
その中には、ゴールドのチェーンとネイビーブルーのサファイアがついたピアスが入っている。
尊都らしい、かっこいい色だ。つけてるところを想像するだけで嬉しくなったから、どうしても贈りたかった。
「……ありがとう。すごく、すごく嬉しい」
尊都の噛み締めるような言葉に、私まで胸がいっぱいになる。
なるほど、恋人が喜ぶというものは確かに自分の幸せにつながるね。喜ぶ姿を見るだけで愛しいよ。
感じた大きな幸せを抱きしめながら、私は尊都を見つめた。
すると、今度は尊都が口を開く。
「刹菜。俺からもうひとつだけ、おねだりしてもいい?」
「なあに?」
恋人のおねだりは、できる限り叶えてあげたい。
そう思いながら見上げると、ピアスをつけた姿の尊都は、柔らかく微笑んで突然その場に膝をついた。
「⁉︎」
尊都は、私と同じように、ポケットからひとつの小箱を取り出した。
白いベルベット地の高そうな箱で、それを尊都がゆっくりと開く。
「……ゆびわ」
リング部分はゴールド、中央に輝くイエローダイヤが埋め込まれた指輪だった。
流石に世間知らずの私でも、知っている。
これは、間違いなく――……
「結婚しよう、刹菜」
「!」
尊都の綺麗なテノールボイスが、私の心に響いてこだまする。
小さい頃から夢見て、それでも無理だと諦めていた、愛する恋人からのプロポーズ。
まさか、尊都の誕生日にされるなんて。
でも、そうだな。確かに、これは私にしか叶えられないお願いなのだ。
「……うん!」
私は、何を言えばいいかわからずに照れながら、一生懸命頷いた。
「結婚しようか、尊都!」
「っ、はは!」
その瞬間、膝をついていた尊都が立ち上がり、私を嬉しそうに抱き上げた。
返事が面白かったのか、それとも嬉しいだけなのか。尊都の顔は今までにないくらい笑顔でいっぱいだ。
「はー……俺、今最高に幸せ。世界で一番かも」
「じゃあ私は宇宙一幸せだなあ」
「ずるいよ、刹菜。俺も同じくらい嬉しいに決まってる」
尊都の頬に触れながら、私は心の中で榊坂 刹菜というフルネームに想いを馳せる。
それは存外、甘くて幸せな響きだ。
「……ありがとう、尊都」
「どういたしまして。刹菜も、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
視界の端で、美しい街の夜景がきらりと光る。
でもそれ以上に、目の前に存在する大好きな恋人――いや、婚約者に目を奪われて、夜景すら見る気になれなかった。
そしてそのまま、私たちは唇を寄せ合う。
誰もいない場所、街の夜景に包まれて。
密やかに街を守っていた孤独なマフィアと、かつて何も持っていなかった私は、お互いがいることを喜んで口付けるのだった。



