「尊都さん」
「ん?」
その日の、夕食終わり。
私の部屋で食後のまったり時間を過ごしていた時間で、私は尊都さんに話しかける。
私の腰を抱きながら一緒にテレビを見ていた尊都さんは、甘い微笑みと一緒に私を見下ろした。
「黒葉さんから聞きました。18日は、お誕生日なんですよね?」
「うん、そういえばそうだったね」
「あの、わがままなんですけど……」
ちらりと尊都さんを見ると、視線で続きを促される。
それを許可と判断し、私は私のわがままを尊都さんに言った。
「私、やっぱり好きな人のお誕生日はお祝いしたくて。……空けといてくれませんか?」
「いいよ」
「お仕事なのはわかってるんですけど――って、え?いいんですか?」
「俺も刹菜に祝ってもらえるの、めっちゃ楽しみにしてたから。そうおねだりしてもらえるの待ってた」
「えっ」
あまりのあっさりぶりに驚いていると、どうやらここまで予想済みだったらしい。
というかその方向でスケジュールはきっと調整済みなんだろう。なんということだ。
尊都さんに秘密のはずの誕生日計画を尊都さんが知らないまま手伝ってくれているような気がする。
なんだか悔しいな。
ま、まあいいや。私のお仕事は達成できたというわけで。
尊都さんのお誕生日に尊都さんと過ごせるのは嬉しいし。
「でも、刹菜のおねだりを聞く代わりに、俺からのおねだりも聞いてほしいな」
すると、尊都さんはいきなりそんなことを言ってきた。
たまに、尊都さんは私におねだりをしてくる。
最初の頃は腰を抱いていいか、とか、肩を抱いていいか、とか。
恋人になってから一年近い今は膝枕とか、あと添い寝とか。
今回は何をおねだりされるんだろうと思っていると、尊都さんからは意外な言葉が飛び出した。
「俺にもうちょっと気軽に接してほしいな」
「気軽に?」
「そう。今敬語にさん付けだよね?もう恋人になってしばらく経つんだし、もうそろそろタメ口で話してくれてもいいんじゃない?」
……うーん、言われてみれば確かに。
私たちが出会ってから、ずいぶん経った。
付き合い始めたのは初夏だが、それからもうすぐ一年。外では桜が咲き始めている。
そろそろ、私も砕けてくるべきというのも一理あるね。
「今すぐとは言わないから、誕生日までには違和感なく敬語が外れてるようにしてほしい」
「……うん、わかった。やってみます、じゃなくて、やってみる!」
敬語が外れると、より対等って感じがしていいね。恋人っぽい。
ちょっとずつ慣れていけば、今からでも誕生日までには馴染むだろう。
尊都さんの呼び方はどうしようか。
対等な関係を目指すなら、やっぱり……。
私は思い切って呼んでみようと思い、間近で期待に満ちた目をしている恋人を見上げた。
「――……尊都?」
「!!」
呼んだ瞬間、ぶわっと心の中に温かい感情が吹き出した。
呼び捨てにできたのが嬉しいのもあるし、気恥ずかしいのもあるし。
でも呼び捨てしたことによって尊都さん……じゃなくて、尊都との距離が縮まった気がするのが大きいかも。
「……へへ」
ちょっとだけ照れて笑うと、尊都はなにかをぐっと堪えるような表情をしたあとに、静かに口付けてきた。
「……ん」
「刹菜、もう一回」
「……みこと」
「もう一回」
「ん、尊都……んぅ」
キスの合間に名前を呼べとねだられて、私はキスに酔いしれたまま尊都の名前を呼ぶ。
甘くて、明らかに私を溶かしにかかっているような気持ちいキスに抗えず、私は波のように襲いかかってくる幸福を享受した。
「はぁ、かわいすぎ……大好き、刹菜」
「ん、私も……尊都が、だいすき」
私からの返事に喜んだかのように舌を入れてきた尊都に、頑張って応えてみる。
恐る恐る私からも舌を絡め返してみると、尊都が熱い息を吐きながらゆっくり私をソファに押し倒した。
「名前の呼び捨て、本当に嬉しい……ありがとう、刹菜」
「恋人からの、おねだりだからね」
酩酊したような気分の今なら、敬語だって外せる気がした。
言ってみるとやっぱり恥ずかしいけど、でも、悪くない。
だから今日は甘えたくて、私は上から見下ろしてくる尊都に手を広げて甘えてみた。
「ん、尊都」
「……っ、なに?」
「キス、もっと」
「……」
尊都は私の頭をふわふわと撫でて、すぐにキスをくれた。
お礼に頭を撫で返してみると、尊都はさらにキスを深くする。
愛の全てを注ぎ込まれるかのような口付けに思考が溶けて、頭の中に愛しさだけが残った。
「刹菜、気持ちいい?」
「……ん」
小さく頷けば、尊都は嬉しそうにしながらまた唇を重ねる。
尊都の手、あっつい……。
私と同じくらい、興奮してくれてるのかな。
そうなだいぶ、嬉しい……かも。
「かわいい、刹菜……ほんとかわいい」
そう呟く尊都さんの瞳に容赦はない。
私はどこで尊都のスイッチをいれてしまったんだろう。
わからないけれど、嬉しくないはずはない。
そうして私たちはそのまま、ふかふかなベッドに溺れていったのだった。



