今夜、星影を溶かして【完】



私は、手枷と足枷をつけられ、さらに目隠しまでされた状態で捕まった。



スマホは没収され、みっちーを撃つぞと脅されロック解除のパスコードを教えると、その男は私のスマホを使って誰かに電話したようだが、誰に電話したのかまではわからなかった。



みっちーも、私の逃亡防止の人質にするために当然のように連行され、私たちはなにがどこでどこがなになのか全く見当もつかない状態で車に乗せられ、そのまま荷物のようにどこかへ運び込まれる羽目になってしまった。



みっちーはさっきから、なにも話さない。



ただごめんなさい、守れなくてごめんなさい、迷惑をかけてごめんなさいと謝るばかりだ。



私が名前をこの男に話したときからずっと、誰かに許しを乞うている。



私が気にしなくていいと言っても、申し訳なさそうに泣くばかり。



銃を向けられていたんだから混乱するのは当然だろうけど、それにしても様子がおかしい。



みっちーはやっぱり、男の人について何か知っているのかな。



聞きたいけれど、男に聞かれるかもと思うと質問どころか会話もできない。



そうして私たちは、重苦しい雰囲気の中、長い間車に揺られていた。







車がどこかに到着すると、私たちは目隠しされたままどこかに連れて行かれた。



エレベーターに乗った気配がしたから、廃墟とかではなさそうだ。



それから錆びた匂いもしなかったから比較的新しい場所のようだが、エレベーターが下降したためおそらく向かったのは地下。



そしてしばらくした後にキィッとドアが開く音がして、「入れ」と中に押し込まれ、そこで目隠しを外される。




「昌之様、345番を発見しました」



「そっか。ご苦労様」




高めの男性の声が聞こえて顔を上げる。



ところが、先に部屋にいたのは1人かと思えば、2人だった。



革張りの椅子に座る20代か30代の男と、もう1人。




「みどりさん……?」



「…………」




屋敷にいるはずのみどりさんが、椅子に座る男――昌之とやらの後ろに控えている。



まるで、王に仕える騎士のように。



私を助けてくれたはずの、みどりさんが。




『その人は逃げているようだが。お前たちはいったい何をしているんだ?』




私の恩人の、みどりさんが。




『ここで違法店が取引していると聞いたから来てみれば、まさか年頃の女性を売り買いしている場所だとは』




私とみっちーを攫うような人間の後ろに、控えている。



部下のように、騎士のように。



それじゃあ、あの言葉は嘘だった?



あの、私を案じてくれるような言葉は。




『俺は刹菜の味方だ。……それだけは明言しておく』




いいや、嘘じゃない。



でも――




『……実は、この街で警察はほぼ力を持たないんだ』




みどりさんは、警察じゃない。



それなら、本当にこの人の部下なんだろう。



だとしても、本当のことを聞かないと。



どうしても、みどりさんが悪い人には思えないから。



すると、昌之と言われた男はちらりとみどりさんに視線を投げた後、頬杖をついて頷いた。




「ふーん、みどり、ねえ。まあ咄嗟に名乗ったにしては違和感なく言えた方かなあ」



「…………」



「っていうかきみ、本当に自分の小さい頃のこと、覚えてないんだね。こいつのこと、思い出せないの?」



「え……?」




そう言って、昌之はみどりさんを指さす。



みどりさんと私は、今までどこかで会ったことがある?



それなら、私を助けたのも私の幸せを願っていると言っていたのも、わからなくもない。



でも……だめだ、思い出せない。




「まあいいや。『あいつ』が来るまでまだあるだろうし、きみが忘れてること、知らないこと、ぜんぶ僕が教えてあげるよ」




そんな私に向かって、昌之はにっこりと笑ってそう言った。




「その女の名前はお前も知っているとおり、ミチカ……だっけ」




昌之さんは、みっちーを指差す。



そのとおり、みっちーの名前はミチカちゃんだけど、部下なのに名前うろ覚えなの?



やっぱり待遇よくなかったりするのかな。



私がそう思っていると、昌之さんは今度はみどりさんを指差した。




「だけど『みどり』は違う。こいつは元々お前も知っていた男だから、今忘れてる記憶を思い出さないように偽名を名乗ったんだろうなあ。な、そうだろ?」



「……おっしゃるとおりです」




みどりさんは、伏せた目を開くことなく頷いた。



その声には覇気がなく、感情もなく、抑揚もない。



目を開けばあの死んだような目が覗くんだろうと、今ならわかる。



そして、そんなみどりさんの様子に構うことなく、昌之さんは次々と真実を吐露していく。




「こいつの名前は『みどり』じゃない。星野(ほしの) (あおい)だ。覚えあるだろ?」



「あお、い……?」




ほしの、あおい。



昌之さんの口から飛び出した名前を口の中で転がしてみる。



すると確かに、覚えがある。



……この名前を、知っている……?




「……ッ」




ぴりっ、と頭に痛みが走った。



それ以上は思い出すなと言われているみたいで寒気がする。



それなのに昌之さんの語る口は止まらない。



私にどんどん事実を突きつけてくる。




「こいつはある日から僕の部下になって、ずっとお前のことを探してたんだよ、刹菜。僕の命令でさ」



「……」



「今回はね、碧とミチカに仕掛けてた盗聴器でお前のことを見つけたんだ。だからこいつらにはゴホービをあげないとねえ」



「ごめん、ごめんなさい、刹菜……!ごめんなさい……!」




……だから、みっちーはずっと謝っていたんだ。



みっちーに仕掛けられてる盗聴器から私の名前がバレてしまったから。



見ればみどりさんも唇を噛み締めていて、その口にはじんわりと血液が滲んでいるように見える。



2人のそんな痛々しい姿に、私はなにも声をかけることができない。




「でもさあ、聞いてよ刹菜。そこにいるミチカはね、僕のことを裏切ろうとしたんだ」



「え……?」



「お前とミチカをここまで連れてきた男いたでしょ?あいつに刹菜を引き渡せって言ったのに、嫌だって拒否してたんだよ」



「!」



「だからそこでお前が来てくれてよかったよ。僕もだあいじな部下を1人殺すなんてしたくないし?」




殺したくないと言いながら、昌之はカラカラと鈴が鳴るように笑ってみせた。



だが大事なのは昌之ではない。私を守ろうとしてくれていたみっちーのことを気にするべきだ。




「みっちー……!」



「……ごめんね、刹菜。あなたを守りきれなかった……!」



「!」




みっちーの目には、私を案じる心配しか浮かんでいない。



昼休みに昼食に誘ってくれた日の笑顔とか言葉とか、私はみっちーからいろいろな幸せをもらったのに、私は返せていないのだ。



そもそも、どうして、なぜこんなことに。



自分と昌之への怒りをぐっと堪え、私は情報をさらに引き出すことにする。




「……どうして、あなたは私を探していたの?」



「ふふん、それはね。ちょっと長くなるから、まずはお前の幼少期から話そうか」