今夜、星影を溶かして【完】





「…………へっ」




脳の機能が、一時停止した。



え、とか、う、とか、不明瞭なひらがなだけしか話せなくなってしまったようだ。



だってだって、今、絶対私の耳がおかしくなったんだから。



都合のいいように翻訳して頭に流しちゃってもう、お腹だけでなく私の耳までおかしくなるなんて。




「……刹菜」




ところがそんな現実逃避すらも、尊都さんは許してくれない。



凛々しくも優しいその声で私を現実に引き戻して、もう一度その言葉を突きつけてくる。




「好きだよ」



「!!!」




今度こそ、聞こえた。



絶対言った。尊都さん、今、好きって言った。



……なにを?



…………私を?




「えっ」




ようやく染み込んできた現実に、私は困惑するしかない。



たった今、尊都さんの迷惑になるから私の「好き」は封印しようと、改めて決意したところだったはずなのに。



どうしてこんな状況に?



というか、「好き」を封印してた理由って、尊都さんが他の女の人を選べるように、だったけど。



もし本当に私を選んでくれるなら、封印する必要なんてないのでは?



でっ、でも、なんで私を好きになったんだろう。貧乏症なだけのただの女子高生なのに!




「好き。俺は、刹菜が好きだよ。すっごく好き」



「……⁉︎」




まとまらない思考に追い打ちをかけてくるように、何度も尊都さんは想いを告げてくる。



まるで聞き逃すという逃げ道すら塞ごうとしているかのようなそれに、私はいよいよ頭が真っ白になってきた。




「あ、あの!」



「……なに?」



「どうして、私を……?」




返事ではなく問いかけを返すという失礼極まりない行為をしたのに、尊都さんは怒ることをしない。



それどころか私の手をいっそう優しく握り込みながら、ありったけの愛を込めて答えてくれる。




「刹菜の度胸と、価値観と、考え方に惚れたから」



「……!」



「俺にはない考え方なのに、価値観が俺と違うわけじゃないんだなって。それに暴漢に対処できる度胸もあるし。一番好きなのは、自分の信念を持ちつつ他人の考え方を理解しようとする柔軟性もあるところかな」




ああ、やっぱり聞くんじゃなかった。



こうまでされたら、もう私は素直に自分の気持ちを話すことしかできなくなる。




「……尊都さんは、本当に優しいですね」



「……」




思わず返した言葉に、尊都さんは無言で視線だけを返してきた。




「私が好きなら、私のぜんぶを無理矢理あなたのものにすることだってできたのに」




なのにそれをしない。



それはひとえに、私の幸せを願うが故のことだろう。



自分の正体を自分から晒して、こんな銃がいっぱいあるところまで連れてきて。



自分の危険さとやっていることをぜんぶ私に教えてから、こうやって気持ちを伝えてきた。



さっきまで塞がれていたはずの逃げ道は、今は力で振り解けば逃げられるくらいまで広がっているし、手を掴む力だって弱い。



私が、嫌だったら逃げられるように、だ。



そこまで頭が回るようになって、私はやっぱり自分が尊都さんに恋愛感情を持っているということを自覚した。



だからこそ、尊都さんに応えなければ。



私は小さく尊都さんの手を握り返して、まっすぐ尊都さんを見上げる。



そして美しく優しい私のご主人様に向けて、私の気持ちを吐露するのだった。




「力があるのに私を優先するくらい優しい尊都さんが……その、私も、すき……です!」




告白とか初めてだし、どうすればいいか全然わからない。



だから最後は辿々しくなっちゃったけど、伝わっただろうか。




「…………っ」




その瞬間、尊都さんは耳を真っ赤にして、口元を手で覆った。



あれっ⁉︎なんかめっちゃ照れてる⁉︎尊都さんが⁉︎



いつも大人っぽくて余裕ある尊都さんが照れてる⁉︎




「……あー……やば、嬉しすぎ……」



「⁉︎⁉︎」




尊都さんはそのまま私の手をぐいっと引き寄せたかと思うと、ぎゅうっと抱きしめてきた。



あたたかい体温に包まれて、私はあわあわすることしかできない。



これは、結ばれたってことでいいんだよね……⁉︎なんか、猛烈に恥ずかしいな……!




「刹菜」



「は、はい!」




そのまま頭上から優しい声が降ってきて、私は元気よく返事した。



こういうときに勇ましい返答をしてしまうところ、どうにかしたい。



こう、女子感が足りないなあと思うけど、だからと言って今更きゃぴきゃぴするのも違うかも、と思ったり。



しかし私が色々私の女子力について悶々しているのとは反対に、尊都さんはとっても嬉しそうな声で私に言った。




「これから、俺たちは恋人だね」



「こい、びと……」




尊都さんの嬉しそうな声を聞いて、思い当たることがある。



尊都さんの家に来た最初の日、尊都さんは『俺恋人できたことないから』と言っていた。



つまり、私は尊都さんの初めての彼女ということだ。




「……ふふ」




私が嬉しさを抑えきれずににやにやすると、尊都さんはさらに私を優しく、力強く抱きしめた。




「本当にありがとう、刹菜」



「こちらこそありがとうございます、私を選んでくれて。……私も、すっごく好きです」




絶対モテるから私は遠慮しなきゃとか、いろいろ考えてたけど。



それが全くの杞憂になったことがとっても嬉しい。



思えばあのときから尊都さんのことをなんとなく好きになってたんだろうなあ。



さすが私、見る目ある。



尊都さんは優しくて不器用で、本当に尊敬できる人だから。




「それじゃあ、そろそろ出ようか。好きな子をずっとこんな物騒な部屋にいさせたくないし」



「……っ」




好きな子、だって。



そう言われるだけでぶわっと顔が熱くなってきて、本当に恥ずかしい。だけど嬉しい。



尊都さんの声が甘ったるくて嬉しそうで、最初会った頃に聞いた氷みたいな声が嘘みたい。



それも私が引き起こすことができた変化なら、それはもう幸せなことだ。




「それじゃあ、とりあえず刹菜の部屋に行こうか」



「はい!」




尊都さんに従って、尊都さんの隣を歩いて武器庫を出る。



手を繋いで、指を絡めて、身を寄せ合って。




「刹菜って、告白されたことって、今日のあの生徒以外であるの?」



「いえ。前はそれどころじゃなくてですねえ」



「あー。確かに?」




他愛もない話をしながら、歩いていった。