今夜、星影を溶かして【完】



「だけど思い返せば、知ってることもありますよ、ちゃんと」



「たとえば?」



「好きな色とか、好きな食べ物とか?あと地味に私を撫でるのお好きですよね」



「ああ、たしかにね」




こんなこと、クラスメイトが自己紹介で交換する程度の情報でしかない。



でも、他人に興味がなかったらしい尊都さんが私にここまで自分を出してくれたのは、嬉しいことだ。




「もっと知りたい?俺のこと」



「それはもちろん。尊都さんが教えたいことはぜんぶ知りたいです」




とはいえ、最近は尊都さんのことならなんでも知りたいと思うようになってきていて、とても困る。



知られたくないことの一つや二つあるだろうし、私がそれらに興味を持つと尊都さんだって接しづらいかもしれない。



だからこそ、私の今の気持ちは隠さないといけないだろう。




「……そっか」




そんなことを決意する私の気持ちなどきっと知らない尊都さんは、微笑んで頭を優しく撫でてくれた。



と思うのも束の間、尊都さんは不安そうな顔で不穏なことを聞いてくる。




「……俺がマフィアでも、刹菜はまだ俺に雇われててくれるの?」



「えっ、解雇されちゃうんですか⁉︎」



「刹菜がもう嫌だっていうなら、解放してあげようかなって」



「結構です!尊都さんと一緒にいたいです!」




勢いよくそう口走ると、今度は尊都さんは驚いたような顔をした。



えっ、あ、なんかやば。なんか余計なこと言った気がする。



でもここで取り消すと聡い尊都さんにいろいろバレかねないので、なにも言えない。



つい、と耐えきれずに視線だけ逸らした。




「……ふーん?」



「…………」




視線を感じるなあ。もっと恥ずかしくなってきた。



ここは一旦退散すべきか……って、あれ?



思わず何か逃げ道はないかと思って視線を巡らせたところで、今回は逃げ道がないことに気づいた。



銃がいっぱいに詰められたこの部屋に、出口はひとつだけ。



そして、扉側にいるのは尊都さんだ。



しかも私がいるのは棚が背後と左右にある場所で、唯一開いているはずの前方は尊都さんに塞がれている。



部屋に入ったのは私が後のはずだったのに、いつの間に私は逃げ道を失って……?



明確な疑問を持って再び尊都さんを見た私の視線に気づいて、尊都さんはふっと笑った。




「気づいた?今回は逃げられないようにしようと思って」




さすが、いろいろと鈍感な私。



尊都さんの策にはまっているのに気付かず、まんまとここまで追い詰められるとは。



だけど、どうして尊都さんは私をはめたんだろう?



……まさか、「お前は知りすぎたから消す」的な……?そこに銃あるし……。




「……刹菜、なんかいろいろと勘違いしてない?」



「へ?」



「刹菜を傷つけたいわけじゃないよ。俺の正体を知ってどう思うか聞きたいだけ」




それは、さっき話したはずだけど。



……やっぱりおかしい。調子が狂っている私だけじゃなくて、尊都さんの顔とか。



美しいのには変わりないんだけど、こう、なんか、慈愛ではないような。



「慈愛」と呼ぶには強くて甘すぎる何かが、入っているような。



まずい、逃げないといけない気がする。



なのに逃げ道がない。体も動かない。



視線だって、尊都さんに吸い込まれたままで戻ってこない。




「……かわいい」




そんな様子の私の頬をするりと撫でてから、尊都さんは私の片手を掬い、その長い指を絡ませてきた。




「⁉︎」




いきなりの展開に驚きを隠せない。予想外のスキンシップに、私の心臓はバクバクだ。



本当に、本当になに⁉︎さっきからずっと心臓に悪いんだけど!




「……ねえ、刹菜」




もう片方の手で私の顎を掴んで視線の逃げ道までも塞いでしまった尊都さんは、妖艶な表情と甘ったるい声で、毒のように私を刺激する。



その毒が私に入って、染み込んで、染め上げていく。



そうして剥き出しになった私の心臓に、尊都さんはトドメをさした。




「俺は、刹菜が好きだよ」