――マフィア〈REGALIA〉。
そうだ、思い出した。
昔、まだこの街が、とある極悪の極道に支配されていた頃。
人々は荒れ、街は乱れ、とても危険な状態に陥っていたらしい。
そんな中立ち上がったのが、その極道の中にいた裏切り者と、マフィア〈REGALIA〉なんだそうで。
彼らが協力して、極悪非道なヤクザを破滅させたらしい。
そのあと街の支配権は移動し、それからずっとマフィア〈REGALIA〉が街を支配している。
スマホもなくて世間知らずだった私でもその話を聞いたことがあるくらい、マフィア〈REGALIA〉は有名だった。
尊都さんは、そんなすごいマフィアのボスだったのか。
流石に街を救ったのは前の代のボスだろうけど、尊都さんはそんなボスに選ばれて後を継いだんだろうから、相当な立場のはずで。
なるほど、「尊都様」だし、「尊都様のお気に入り」があんな扱いを受けるわけだ。
私は、知らず知らずのうちにマフィアのボスに飼われていたらしい。
「尊都さんは、何歳でボスになったんですか?というか、おいくつなんですか?」
「俺は今22歳。ボスになったのは去年だよ」
早すぎでしょ。ボスってもっとこう、経験積んでから就任するものじゃなかったの?
それだけ尊都さんがすごいのか、それ以外に人材がいないのか、どっちだろう。私にわかることではないけれど。
それにしても、尊都さんとは5歳差か。もっと離れてると思ってたけど、思ったより歳近かったな。
こんな輝かしい20代から大きな立場に立って、いろいろ困ることもあったのではないだろうか。
「ボスって、やっぱり大変ですか?」
「まあね。仕事いっぱいあるし」
「そうですよね」
だが、私が大変さを推し量るのも失礼だろう。
寄り添ったり言葉をかけるよりも、私にはもっと他にできることがある。
まずは、疲労が取れる紅茶でも淹れよう。
そう思った、そのとき。
ぎゅるるるるるっ。
「……」
「……やだなあもう、私のお腹ってば」
緊張感のない私のお腹を、ついぺしっと叩く。
今鳴るのは違うでしょう。さっきご飯食べたばっかりなのに。
「……お腹空いたの?」
「いえ……その」
お腹は減ってない。
舌は肥えたし、たくさんものを食べられるようになってはきたけれど、そんなにお腹は欲深くなってないし。
だけど、ね。ちょっと仕方のない理由があるのだ。
「紅茶でも淹れようかなと思ったとき、ふとアフタヌーンティーなるものの存在を思い出して」
「それを想像してたら鳴った?」
「はい、お恥ずかしながら……」
本当に、なんてときに鳴ってくれるんだ、私のお腹は。
真剣な雰囲気だったはずだけど、どうしてこう空気を読めないかなあ。
「ぷっ、ふふ」
「あ、笑いましたね」
「そりゃそうだよ。相変わらずだなあって思うとおもしろすぎて」
「私はこんなにも恥ずかしがってるのに!」
ごめんごめん、と笑みをこぼしながら私を撫でてきた尊都さん。
撫でればなんでも誤魔化せると思っているのだろうか。気に食わないけれど、尊都さんのことが好きな私にとっては嬉しいから、今回は誤魔化されてあげよう。
「……でも、よかったです」
「なにが?」
ぽつりと呟くと、尊都さんが首を傾げる。
不思議そうな顔の尊都さんに、私は穏やかな気持ちを込めた微笑みを返した。
「私、ちゃんと『尊都さん』を見れてたんですね」
「不安だった?」
「尊都さんについて、知らないことだらけでしたから」
年齢も、名字も、職業も。
なんでボスになったのか、尊都さんはこの部屋にある銃でいったいなにをするのかとかは、まだ知らないままだ。
こんなに知らないのに尊都さんのことが好きだなんて、おかしいだろうか。
でも、謎めいた尊都さんの隙間から覗くあたたかい優しさに、どうしようもなく惹かれてしまったのだ。
無言の気遣いとか、尊都さんなりの慈愛とか、いろいろ。



