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その日の夜。
「刹菜」
もうすぐ夜ご飯の時間だろうかという頃、尊都さんが真面目な顔で切り出してきた。
突然のことだったからちょっとびっくりしたけれど、でもとても重要そうだ。
「これから時間ある?」
「はい、大丈夫ですけど」
「それじゃあ、おいで。見せたい場所がある」
自然な動きで手を差し伸べられて、一瞬動揺した。
手を繋げということらしい。
ちょっと緊張するけど、まあラッキーくらいに思っておこう。
好きな人と手を繋ぐ機会があることに驚きつつ、私はその手を取った。
「……刹菜はさ、俺のこと、どう思ってる?」
歩きながら尊都さんが出してきた問いに、私はなにも返せずに言葉に詰まる。
「どうって……どういうこと、ですか?」
「お前は、俺のなにを見てるのかなって」
なにを、なんて。
そんなのわからないに決まっているのに、なんで聞いてくるんだろう。
私は尊都さんという存在を見ているつもりでいるけれど、尊都さんについて知らないことは山ほどある。
だから私が尊都さんのなにを見ているかなんて分からない。
もしかしたら、上辺だけ見ているだけなのかもしれないし。
なんでそんなこと聞いてくるんだろう?
尊都さんは、私がなにを見てるかわからないから聞いてきたのかな?
「……尊都さんは、どうだと思いますか?」
「それ、聞き返してくる?」
「尊都さんから見て、私は尊都さんのなにを見ていますか?」
そう聞いてみると、尊都さんはとある重厚な扉の前で足を止めて、ふっと微笑んだ。
ドアノブ近くにある指紋認証をクリアし、ドアノブに手をかける。
「――俺を」
そして、その綺麗な微笑みに見惚れている間に、ドアをゆっくりと押し開いた。
「『榊坂 尊都』という俺自身を、まっすぐ見てるように感じる」
「!?」
いきなり告げられたフルネームと、嬉しい答え。
あまりにびっくりしすぎて思考が止まる。
榊坂って言った?それが、尊都さんの名字?
えっ、どうして言ってくれたの?
戸惑うばかりの私の手を引っ張りながら、尊都さんは部屋に入っていく。
そして、またもや私は言葉を失った。
「この、部屋は……」
「驚いた?……これが、俺のやってることだよ」
その部屋は、狭くて薄暗い、不気味な部屋だ。
背の高い棚がただ敷き詰められた部屋で、それ以外にはなにもない。
そして、その棚には。
「これ、ぜんぶ……本物なんですか?」
「……そうだよ」
銃。
オーソドックスな拳銃から、銃身の長いスナイパーライフル。
よく見る形のアサルトライフルや、よくわからない銃口をした不思議な銃に、銃弾の入ったダンボール。
これ、ぜんぶ、武器だ。
……本物の、武器だ。
なにかあるとは思ってたけど、尊都さんがこういう職業だったなんて。
……さすがにびっくりだ。
「……尊都さんの職業は、なんですか?」
繋いだ手は離さないままで、目を真っ直ぐ見る。
今まで問いかけてこなかったご主人様の真実を、今、聞かないといけない。
そして、尊都さんがなにをしていたとしても――
『この街に私立の学園はいくつかあるけれど、どこも尊都様の寄付のおかげで設立できたところなんだ』
尊都さんの所業が、どれだけ残酷に見えたとしても。
『雇ってあげるから、俺んとこ来てよ』
尊都さんは、きっと、とっても優しい人だから。
『尊都様は、あまり人に自分のことを話したがらないんだ』
私に話してくれるのなら、それは私への信頼あってこそ。
なら、私は私らしく、自分を貫くべきだろう。
私は自分で見てきたものを一番に信じる。
そして、尊都さんは私にとって、心優しい人物。
それが崩れることは、おそらくこれからもないだろう。
そんな想いを込めて見つめていると、尊都さんは私の気持ちを知ってか知らずか、穏やかな表情のままで自分のことを話してくれた。
「マフィア」
「……」
「俺は、マフィア〈REGALIA〉のボス、だよ」



