「んーっ、美味しかった!」
お昼。
午前の種目をやりきり、お昼ご飯を平らげた後の昼休憩。
私は、散歩をしに裏庭まで来ていた。
手入れされた花壇を眺めながらベンチに座り、なんとなく空を仰ぐ。
尊都さんはお昼休憩になった途端校長先生に連れられて校舎に戻っていたけれど、涼しい室内で昼食かな?
裏庭からなら校長室の窓が見えるんだけど……うーん、よくわからないな。
「流石にいつまでも窓側にいるわけじゃないだろうしなあ……」
まあ、見つけられなくても別にいい。
お昼休憩が終わればまた見れるわけだし。
それにしても、と思い出すのは、尊都さんからの写真への返信だ。
尊都さん、メッセージでみんながやってくれた私の見た目を褒めてくれた。
やっぱり嬉しいな、私の親友たちはすごいんだ。
ホクホクしながら髪をいじって遊んでみる。
さらりとすべすべの髪が指の間を通って落ちた。
前までゴワゴワだったのにねえ、さすがはいいシャンプーとコンディショナーだ。
とまあ、そんなことを考えていると、「あっ、刹菜さん!」という男の子の声が聞こえた。
「あれ?ユウスケくん、どうしたの?」
見てみると、クラスメイトのユウスケくんだった。
私を探していたのだろうか、息を切らしながら走ってくる。
私なんか仕事でもあったっけ?
「いや、その……俺、大事な話があって……」
「大事な話?」
息整えるから待ってと言ってから、ユウスケくんは後ろを向いて深呼吸をする。
こんなところまで来ていたから相当探しただろうに、申し訳ないな。事前に言ってくれればよかったのに。
それにしても、大事な話ってなんだろう?
予想がつかなくて黙っていると、ふうぅーっと大きく息を吐いたユウスケくんが、真面目な顔で振り返ってきた。
「……あの、俺、今まで刹菜さんのこと、なんか怖くて近寄ってなかったんだ」
「怖くて?」
「ご、ごめん、その……いつも大変そうだったし、もしかしたら街の変なことに巻き込まれてる人かもしれないなって。そうだったら怖いなって……いや、今はもう思ってないから!誤解してて本当にごめん!」
「いやいや、気にしないで!」
どっちかというと最近巻き込まれ始めた方だけど、とりあえず黙っておこう。
それに、あんなにいつもボロボロだったんだから、毎日ケンカしてるみたいな思われ方をするのも不思議じゃない。
そうか、周りの人はそれで近づいてこないのもあったのか。
「それで最近は、刹菜さんが全然怖い人じゃなかったの知って……生活保護、やっと入るようになったんだって?」
「え、あー、まあ」
そういえばみっちーたちにそう言ったことがあったっけ。
その会話を聞いていたのか。まあ聞かれたときは「生活保護のおかげ」って答えるようにはしてたし、知ってて当然か。
「それで……その」
ユウスケくんは、私を一瞬見て、それから恥ずかしそうにしながら、ぴっとピッタリ90度に腰を曲げて頭を下げてきた。
えっ、そんなに謝らなくても!全然大丈夫なのに!
なだめて頭をあげてもらおうとするも、先に口を開いたのはユウスケくんの方だった。
そして、ユウスケくんは衝撃の一言を投下してくる。
「刹菜さんのこと、好きになりました!付き合ってください!!」
「……え」
う、うそだあ。
そんなこと、ある?
私、本当にユウスケくんに何もしてないよ。
ただ私の青春を謳歌していただけなのに。好き、だなんて。
えっ、どうして……⁉︎
「あ、あの!本気なので!」
戸惑っている私に気づいてか、ユウスケくんが私の手を握りつつ言い募ってくる。
「刹菜さんの優しくておおらかなところとか、強くて頼もしいところか、クラスで見てました!そこが、好きで!」
「……!」
矢継ぎ早に告げられた好きなところに、私は困惑しつつも純粋に嬉しさを感じていた。
優しくておおらかで、強くて頼もしい、だって!
そんなふうに思ってくれたんだ、とっても嬉しい。
……でも……。
「……あの!」
告白なんて初めてだからなんて言えばいいかわからないけど、誠実な言葉を考えながら自分の想いを紡ぐ。
「私のこと好きって言ってもらえて、とっても嬉しい、ありがとう!」
勇気を出してくれたんだろうから、私も私なりの誠意を見せないとね。
どんな結果で、どんな返事を返すのだとしても。
その一心で、慎重に話す。
「……でも、ね、ごめんなさい。ユウスケくんとは、付き合えない」
「っ」
なんでって考えると、はっきりとはわからなかった。
でも、ユウスケくんじゃないって思う。私が付き合いたいのは、ユウスケくんじゃない。
ユウスケくんだって、無理矢理付き合いたいわけじゃないはずだ。
どちらかが我慢しないといけないカップルなんて間違ってる。
だから、私は付き合いない。
だって私が付き合いたいのは、もっとこう、尊都さんみたいな――
…………あれ?
「っ、ごめん、わかってた、そうだよね……!忘れて!ありがとう!」
「あっ、ユウスケくん!」
自分の考えに疑問を持っていたその瞬間、耐えきれなくなったのか、ユウスケくんはそれだけ言って去ってしまった。
とはいえ、今の状況でユウスケくんにかける言葉もないから、結果的によかったのかもしれないけれど。
結果的に私は何もできず、伸ばしたまま行き場を失った右手を、そっと下ろす。
「…………」
……さっき私、なに考えてたんだろ。
ユウスケくんとは付き合えないっていう結論と、恋人の理想像を描いたところまではいい。
だけど、私は今、その理想像に何を思い浮かべた?
『――大切な存在。俺の今の『日常』に欠かせない、俺の大事な一部になってきてる』
いや、ちょっと待ってよ。
最近、気を引き締めたばっかりだったじゃん。
尊都さんは引く手数多なんだから、私が迷惑にならないように惚れちゃいけないって。
でもよく考えれば、「惚れちゃいけない」って考えてたなら、私は尊都さんに惚れそうだったってこと?
それで、恋人の理想像が尊都さんなら……もしかして、もしかしてもしかして!
「うわあ…………」
ベンチに座り込み、口元を手で覆った。
頬が熱くなってくるのを感じる。
……そうか。だから私は、尊都さんのことが頭から離れなかったんだ。
悩みを相談されたみっちーたちも困るわけだ。
明らかに、私は恋する女の子だった……!
「やば、どうしよう」
これから、どういう顔して尊都さんに会えばいいんだろう。
朝ごはんとか夕ご飯とか、一緒に食べるのに。
目の前に尊都さんがいないのにこんなにドキドキしてるなら、一緒にいるとき私はどうなってしまうのか。
「……でも、だって……」
優しいし。気配りがすごいし、頼もしいし。
労いくれるし、働き者だし、誕生日プレゼントだってくれちゃうし……。
こんなふうにされたら、好きにならないほうが無理じゃない?
「…………あーもう!!!」
すっくと立ち上がる。
ここで悶々と悩んでても時間の無駄だ。
みっちーたちのところに行って、別の話題で気を紛らわそう。
そうと決まれば、さっさと戻ろう。
熱くなった頬を冷やせるように小走りで、私は裏庭を後にする。
そして、みんながいるであろう校庭に向かっていった。
――だが、その目論見は達成されることなく。
みんなに相談した悩みがせっかく解決したというのだから報告はすべきだという考えを持ったのがいけなかった。
自分の恋心を自覚したことを伝えた瞬間背中をバシバシ叩かれ「やっとか乙女!」とか「しっかりしなさい鈍感娘!」とか言われて。
挙げ句の果てには好きになった人のことを事細かく聞かれてしまい、体育の種目よりもそれを誤魔化すほうに体力を割くことになった。



