そして迎えた、体育祭の日。
すっかり仲良くなった厨房のスタッフさんからもらった「体育祭スペシャル☆あなたのためのパワーモリモリお弁当♡」を手に、私は勇ましく学校にやってきた。
「刹菜ちゃん!件の男の人は⁉︎」
「来るって言ってました!」
「よくやった!!!」
おっしゃあああ!と乙女らしからぬ雄叫びをあげる親友たちは、実に頼もしい。
そして一気に私にぎんっ!というキマッた目を向けてきて、みんな揃ってヘアアイロンやらメイク道具やらを取り出した。
「へ?」
「おはようございます。刹菜ちゃんを応援する会と申します」
「なにそれ」
「これから僭越ながら、刹菜ちゃんのプロデュースをさせていただきます!」
ちょっと待って、聞いてない。応援する会ってなに。っていうか目が怖いよ。
意味がわからず戸惑っても、友達は止まることを知らない。
みっちーはいつも通りただ結んだだけの髪をほどき、なんか高そうなブラシで梳かし始める。
その間に濡れタオルで顔を拭かれ、みんながそれぞれよくわからないメイク道具をじゃきっと見せてきた。
「それじゃあ刹菜ちゃん、目を瞑ろうか!」
「体育祭でも崩れない最強メイク道具でとびきり可愛くしてみせるから!!!」
親友たちの気迫は凄まじいものだ。
それもこれも私のためと思うと、申し訳ないより嬉しすぎるが圧勝して。
私は、おとなしく目を閉じることを選択した。
「できたよ!」
「うわあ……かわいい!」
しばらくして。鏡越しに見た私の姿は、想像の1億倍かわいかった。
これぞ親友パワー。恐るべき友情の力。私の目尻や頬に足された色味が、私の顔をうまく引き締めているような気がする。
肌の色にも合っているし、ナチュラルで重くない、軽くて透明感のあるメイクだ。これはすごい。
さらに、みっちーによって髪型は激カワの二つ結びに変わっている。
髪を二つに分けて編み込み、耳あたりの高さで後ろに結ばれ、どこから取り出したのかもわからないポータブルアイロンで髪がくるくるに巻かれていた。
私たちの組を表す白色のハチマキも、かわいいリボン風にアレンジされている。
「え、すごすぎん?みんな天才?天才だよね?」
「喜んでもらえてよかった!よかったらみんなで自撮りしよう!」
「えっ、みんなで写真⁉︎やったー!」
そのままみっちーのスマホで、少しだけ肌の血色を加工して、顎の角度とか色々指導してもらいつつ、みんなと写真をパシャリ。
すぐその写真を私のスマホに送ってもらった。
「ありがとう……!みんなとの思い出が増えて嬉しい!!」
「あーもーかわいいなあ!その写真は今すぐ例の男の人に送るのよ!」
「わかった!」
こんなに素敵な親友ができたんだよって、今すぐ尊都さんに自慢しないと。
なぜか一仕事終えたような顔つきのみんなに限りのない感謝を伝えながら、私は早速尊都さんに写真を送った。
いつ既読つくかな。私の親友たちのこと、早く話したい。
そうやってワクワクしたものの、まもなく訪れる集合時間に追われ、ハンディファンと帽子と日焼け止めを手に私たちは校庭に向かった。
*
「……あ」
「?どうかしたか?」
「……いーや、なんでも」
応接室にて、来賓席への案内を待っていると、珍しく刹菜からメッセージが送られてきた。
確認してみれば、トークルームには刹菜の写真が一枚。
おそらく友達なのであろう人々の真ん中で、朝とは様子の違う刹菜が満面の笑みでピースしている。
髪はもちろん、ハチマキやメイクまでこだわっていて、かなり手の込んだアレンジがされているようだ。
「……ふーん」
刹菜の素材を活かすメイクに、珍しいけど似合っている髪型、そして笑顔。
きっと、周りに映っている人々にやってもらったんだろう。刹菜は、いい友達を持てているらしい。刹菜がとても喜んでいるのは刹菜の笑顔からも明白だ。
…………この写真一枚に、否、写真に映る刹菜に、俺は不覚にも頬を緩ませてしまう。
「……かわいいじゃん」
黒葉にも聞こえないくらいの呟きをこぼして、迷わず画像を保存する。
きっと刹菜は、この写真を保存できることを知らないだろうな、とか。
保存したって知ったら驚くかな、とか。
どうでもいいことを考えて嬉しくなる自分がたまらなく不思議だ。
だけど、同じくらい誇らしい。俺は、刹菜という素晴らしい人間を好きな人として選べたということだから。
「……」
見た目や、それを施したであろう友人たちに対する賞賛と応援の言葉を綴って、メッセージを送る。
昼休みまで返信に気づかない可能性も考えたが、意外なことにすぐに既読がついた。
読んでくれた。なら、返事は来るだろうか。送信に苦労して時間がかかるかもな。
かつて送られてきた奇妙な文面を思い出し、笑いそうになって慌てて表情を引き締める。
……俺が誰かとのメッセージをこんなにも楽しく思うなんて、昔は考えたこともなかった。
だが、今になってみれば、しきりに黒葉や俺と連絡先を交換したがる女性たちの気持ちも少しだけわかるというものだ。
「み、尊都様」
「……ん?」
「そろそろ、校庭に移動していただいてもよろしいでしょうか……!」
ぺこぺこしながら言ってきた校長に頷き、黒葉と席を立つ。
……この校長は俺の正体を知っているからこういう態度なんだけど、果たして、刹菜が俺の正体を知ったら、どんな反応をしてくるだろうか。
きっと、たぶん、「すごいですね」とか、「大変そうですね」とかで終わると思う。
それで、紅茶を淹れようかとか、ほかにできることはないかとか、そういうことを考えてくれるんだろう。
それが、俺にとってはたまらなく嬉しい。
……なんて、俺はいつも刹菜のことばかり考えるようになったな。
我ながら、自覚した途端に「好き」が重い。
俺自身の変わりように少しだけ笑いそうになりながら、俺は校長に従って外に向かっていった。
*



