今夜、星影を溶かして















「あ、おかえり、刹菜」



「よう、刹菜」



「尊都さん、黒葉さん!ただいまです」




その日の帰りにて。いつものように車に乗り込むと、なぜか尊都さんと黒葉さんも乗っていた。



尊都さんはパソコン、黒葉さんは書類を膝に置いていて、明らかに仕事中といった様子だ。



はて。急にどうしたんだろう?




「珍しいですね、お二人も一緒だなんて」



「ちょうど出張先で仕事をしてきた帰りなんだ。近くを通ったから、ついでに拾っていこうかって話になってね」



「なるほど」




私服でラフな尊都さんも最高にかっこいいけど、スーツを着こなす尊都さんもかっこいいな。



目を奪われながらも隣に座ると、尊都さんは満足そうに少しだけ微笑んでからパソコンに目を落とす。



移動中も仕事だなんて、大変そうだな。いつも忙しそうだもん。



ますます体育祭なんて誘っていられないけど、敬礼してしまったからには腹を括らなければ。



そう思っていると、突然尊都さんが、私のほうに視線を寄越した。




「そういえば」



「はい?」



「近々、刹菜の学園で体育祭があったよね?」



「はい、そうですけど」




そこで、ふと私はん?と気づいた。



そういえば、図書館の司書先生によると、尊都さんは学園に寄付してる人っぽかった。



それならば、尊都さんは、学園が来賓として招待してもおかしくないのではないだろうか。



そして予想通り、尊都さんは私の目をまっすぐ見つめながら言うのだった。




「俺、体育祭に招待されてるから。刹菜を見に行くね」




そうして、意図せずに親友のアドバイスを達成することになった。



来賓に招待されるなんてさすがは尊都さん。いったい何者なんだろう。



答えを求めているわけでもないのにぼんやりとそう考えていると、尊都さんの向こうから黒葉さんがひょっこりと顔を出してきた。




「当然のように言ってるけどな、刹菜。こいつ、いつもは面倒臭そうに『黒葉が代わりに行ってきてよ』とか言ってくるんだぜ」




半笑いで黒葉さんが真似た尊都さんのセリフは、微妙に似ていない。



黒葉さんの物真似が妙にツボったのと、それから尊都さんがいかにも言いそうだなあと思ったので、私はぶふっと吹き出してしまった。




「……はあ、余計なことを言う口だね。それじゃあ、黒葉が小学校のとき徒競走で転んでギャン泣きしてたことも言おうかな?」



「おまっ、もうそれはぜんぶ言ってるじゃねーか!」




途端に恥ずかしそうにする黒葉さんと、それを見てしてやったりと笑む尊都さん。



尊都さんと黒葉さんの幼少期のエピソードを聞いて、私は得した気分になった。



なんというか、やっぱり2人とも小学校時代はあったんだなって。



それに、尊都さんって黒葉さんと結構長く一緒にいるんだなあ。



黒葉さんもそうだし私も、尊都さんの『人付き合いが面倒』の中には入ってないんだろう、きっと。



……私がその中に入れてもらえたの、嬉しいな。




「どうしたの、刹菜。ニヤニヤしてるけど。黒葉が転んでるとこ想像した?」



「やめてくれ刹菜、今でも若干引きずってんだよ」



「ふふ、違いますよ。尊都さんが黒葉さんを慰めるところを想像してたんです。絶対かわいいだろうなって」




そう言うと、尊都さんは目を細めて私の頭を撫でると、「俺をかわいいって言うのは刹菜だけだよ」とだけ言ってまたパソコンに目を落とす。



一見すると私の言葉は尊都さんに何も響いていないように感じるが、私は目ざとい女だ。



尊都さんの表情にほんのりと照れが、たった一瞬だけ滲んだのを、私は見逃さなかった。



照れてたのかな。照れてたよね?めっちゃ新鮮だなあ。




最近は微笑むようになったけど、なにもないときとか普段はびっくりするほど表情動かないよね、尊都さんって。



そんな尊都さんが照れて、しかも表に出すなんて。



感動で涙がちょちょぎれそうだ。



……とまあ、どうでもいいことを考えつつ。



尊都さんや黒葉さんのお仕事の邪魔をしないように窓の外を眺めながら、私は今日のお昼の出来事に思いを馳せる。




『親友の私たちがなんとかするからね!』




親友……親友、か。



そういえば、尊都さんと黒葉さんも悪友かつ親友だって言ってたっけ。



きっと幼馴染でもあり、頼れる仕事仲間でもあり、黒葉さんが尊都さんの手伝いをしているのを見ると、もしかしたら上下関係でもあるのかもしれない。



「お気に入り」やペットとしての人間は私が初めてでも、尊都さんにとって大切な人が他にもいたなら、よかった。



大切な存在は、人生に彩りをくれるから。



私だって、尊都さんと出会ってから……尊都さんが「大切な存在」になってから、毎日が楽しくて仕方がないわけだし。



……ついに私にもできたんだ、親友という存在が。



頼まれなくてもお互いの悩みの解決のために動いちゃう、みたいな。そんな関係でいられたらきっと幸せだ。



そんなふうに、より一層親友たちと仲良くできるといいなと楽しみに思いながら高級住宅街の街並みを眺める私であった。