プリクラ。それはゲームセンターの中でも特に青春の色が濃い要素だ。私調べだと。
みっちーとかも、プリクラで撮った写真をスマホカバーに挟んでいたりした。
だからずっと憧れていたのだ。ゲームセンターに来た今、これを逃す手はない。
そんなふうにワクワクした目で見ていると、尊都さんは小さなため息をついた。
「しょうがないな……いいよ」
「よっしゃ!」
嬉しさのあまり満面の笑みでガッツポーズを作ると、尊都さんは「どれがいいの?」と聞いてくれる。
たくさんの箱がある中で、私はみっちーに事前に聞いておいた「一番盛れる」らしいプリクラを指差した。
ちゅるんとした唇と大きな目が印象的だ。なるほど、実際の写真を加工してくれるらしい。
「ふふふ……」
「ニヤニヤしてるね」
「当然です!尊都さんとプリクラを撮れるんですから!」
「…………刹菜だけだよ」
そりゃそうだ。私立学園の支配者みたいな地位で、あんなに大きな屋敷の主人だもん。
そんな人が誰とでもプリクラを撮っていたらびっくりだよ。
でもそんな人が私とカーレースゲームやプリクラなんてものをやってくれる事実が喜ばしいから、嬉しいのだ。
そんな私を見て今度は少しだけ喜色を滲ませたため息をついた尊都さんは、手際よく五百円を機械に投入した。
モードや背景、人数などを設定してから撮影ブースに入る。
床に書いてある足のマークに位置を合わせて、ウキウキしながら隣の尊都さんを見た。
「それじゃあ尊都さん、最初は何のポーズを――……っ!」
思わず、息を呑んだ。
顔が……尊都さんの顔が、あまりにも近い。
そ……っか、画角に入らないといけないから、近づかなきゃいけなくて……。
思ったよりこれ、恥ずかしいな……!
絶対今、主従関係の人たちの距離感じゃない!
そう思って、私はぶわっと顔に熱が集まるのを認識しながら固まってしまった。
「……どうしたの?」
そんな私の心境を知ってか知らずか、尊都さんは妖艶な笑みで問いかけてくる。
その美しい夜の海の色をした瞳がすっと細められて、まっすぐに私の目を射抜いた。
「ほら、始まっちゃうよ。ポーズしないと」
「そんなこと言われましても、今は頭が真っ白なのでポーズなんて何も思いつかなくてですね!」
「じゃあ、俺が考えてあげようか」
その言葉とともに、尊都さんはぐっと私の腰を引き寄せる。
はい⁉︎だから、それは絶対違うって!恥ずかしいって!っていうかなんでそんなことを⁉︎
戸惑いしかない私をじいっと見つめながら、尊都さんは楽しそうに笑うばかり。
もしかして尊都さんって優しいけど、いじわるでもあるのか。
それに気づいたときにはもう遅く、撮影の瞬間が残り2秒にまで迫っていた。
「手、貸して」
「は、はい!」
もう頭がパンクして、なにも考えられなくて。
ご主人様に与えられた命令に従って反射的に手を伸ばすと、尊都さんはその手をぎゅっと握った。
「っ!」
『はい、チーズ!』
ちゅっ、と。
尊都さんに似つかわしくない音が、撮影ブースの中に落ちる。
私はというと、あまりに予想外が連続しすぎて、なにも反応することができないでいた。
「……⁉︎」
「……あーあ。顔真っ赤」
深くて吸い込まれそうな尊都さんの双眸が喜びを浮かべるのを、私はぼんやりと認識する。
だって、だって、だって、今の。
尊都さんの唇が、私の額に……⁉︎
「えっ夢……?今、なんで、なにを……」
「……」
というか、と私はまとまらない思考のまま考える。
尊都さんは、なにがあっても私の嫌なことはしないはずだ。
私だって、嫌だったら即突き飛ばすくらいの反射神経を持っている。
なのに、私は……。
「うう、もうなにもわかんない……」
「あは、ショートしちゃった?」
じゃあこのくらいでいたずらはやめておこうと言って、尊都さんは私の頭をぽんぽんと優しく撫でて。
そのあと、私は回らない頭のまま、普通のハートやらピースやらのポーズをとりながら照れ続けていたのだった。
プリクラを撮り終わり、私は手元のプリクラのシールを見つめる。
思い出したらまた頭がこんがらがるから、写真選択は普通にポーズしたやつにしようと思ったのに。
尊都さんに「最初のやつを一番大きいところに」と、カーレースで勝って得た命令権の一回目を使われてしまい、私は額にキスされた真っ赤な私の写真を手にしているのである。
なんだこれ。本当に恥ずかしいんだけど。鋼メンタルのはずの私でも流石に管轄外すぎる。というかいじわるはあれで終わりじゃなかったのか。
いろいろ思うことはあるけれども、私がなんだかんだ嫌ではなかったのが印象的すぎてなにも言えなかった。
そして尊都さんも、自分の分のプリクラをちゃんと受け取ってくれた。ど真ん中にはやっぱり最初の写真が映っている。
もう、全く。プリクラがあんなに恥ずかしいなんて知らなかったな、リサーチ不足。
今度はどういうものなのかしっかり調べないと!
そう決めたところで思考を切り替えようとしたが心臓の鼓動は収まることなく、まだ思い出すだけで顔が熱い。
「……刹菜が照れてんの、かわいい」
「どなたのせいだと!」
「俺でしょ?だからかわいいなって」
「⁉︎」
尊都さんは私の熱い頬をつんつんとつつきながら口元を歪めた。
「さては、反応をおもしろがってますね……⁉︎」
「セーカイ。よくわかったじゃん」
なんだか悔しかったので、頬をぷくっと膨らませて小さな反抗をしておく。
それでも尊都さんは心底幸せそうに笑うので、もう私は今度こそ、考えるのを諦めた。
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