そして、髪を切る日がやってきた。
その日も癖で早く起きてしまった私は、大きなウォークインクローゼットの中をぐるぐる散歩しながら思考する。
うーん、ファッション、わからん。
今まで学校の制服とバイトの制服と学校ジャージしか着てなかったからなあ。
どれがいいのやら?
時計を見ていないのでわからないが、悩み始めてもう結構経つはず。それでも決まらない。
「…………よし」
聞いてみよう。メイドさんとかに。
そうしてウォークインクローゼットを後にして部屋から出る。
使用人さんとはもうみんな仲良くなったし、誰か忙しくなさそうな人を見つけたら協力をお願いしてみよう。
ということで部屋から出たけど、そこではたと気づいた。
私、まだこのお屋敷の全貌すら知らない。
私の部屋の位置とお風呂と、かろうじて小会議室3もわかるけど。
そういえば、それ以外に行ったことがない。
「迷子になりそう…………」
なんてったって「小会議室3」があるお屋敷だ。
黒葉さんや尊都さんの職場だけでなく、黒葉さんの居室すらありそうな感じだ。
使用人全員の部屋もあったりして。ははは、本当にありそう。
「……うろちょろするのやめよう」
着る服は大人しくスマホで調べてみるか、と肩を落として部屋のドアを開けた、そのとき。
「あ」
隣の部屋のドアが開いて、出てきた人物と目が合う。
「おはようございます、尊都さん」
「おはよう、刹菜」
尊都さんだ。
もう私服に着替えていて、灰色のスラックスに黒の上着とかを合わせている。
珍しく小さいチェーンのネックレスもつけているようだ。アクセサリーをつけるなんて意外。
でもなによりも、尊都さんがすっごくかっこいい。似合ってる。
「……どうしたの?」
「……かっこいいなあと思って」
「そう?ありがとう」
尊都さんは言われ慣れているのか、特にこれといって反応することはない。
だからといって、煙たがる様子もない。
でも気になるから、ネックレスについても聞いてみようかな。
「尊都さんがネックレスつけてるの、とっても意外です」
「やっぱり?俺もそう思う」
尊都さんは自分の首から下がっているそれをちゃりちゃりと弄びながら少し微笑んだ。
懐かしむような、思い出すような顔だ。
「これは、黒葉が私服着るときはとりあえずつけとけって言って俺にくれたやつ」
「なるほど」
その一言で察してしまった。
きっと尊都さんもこういうファッションとかってわからなかったんだ。
それを見かねた黒葉さんが「こいつはこれつけときゃかっこよくなるだろ」みたいなノリでプレゼントしたに違いない。
「実際、これつけるようになってから使用人たちの反応もいいから助かってるよ」
「それまでは何で出歩いてたんですか」
「全部スーツ」
「ああ……」
なんか、本当に似てるな。
スーツってつまり仕事着、私の学校の制服みたいなもんでしょ?
まるっきり私の思考と同じだ。
けど尊都さんは、「スーツ以外も着ろよ」的なこと言われて悩んでたから、黒葉さんがネックレスくれたのか。
私的にはかっこいい尊都さんが見られて得した気分だ。
「そういえば、刹菜。何かまた悩んでるみたいだけど、どうかした?」
「……尊都さんってどこでその心読む技術つけたんですか?」
「秘密。ほら、ご主人様の命令だから話して。どうしたの?」
うっ。そこで「命令」持ち出してくる?
そこまでして私の悩み知りたいんか。私に絶対悩ませないその姿勢はとっても嬉しいけども。
ここまで些細な悩みだと、なんか気が引けるんだよなあ。
「話せないの?」
「いやあ、大したことない悩みなので……」
「大したことなくても話してよ」
ええ……?なんか恥ずかしいんだけど。
意外と押し強いなあ、私のご主人様は。
結局、私は悩みを話した結果、尊都さんに丁寧に好きな服の系統のカウンセリングを受けることになり。
尊都さんの見事なカウンセリングの結果、私は無事好みの系統を見つけ出すことができた。
…………尊都さんと同じ、モノトーンコーデだった。



