今夜、星影を溶かして






その日の昼休み、私はとあることを思い立った。



たしか、中庭でもご飯食べていいんだったっけ。入学式のときにそう言われた気がする。



ちょっと暑いけど、日陰のベンチなら気温も大丈夫だろう。



たまには外で食べるのもいいかも!



今日のお昼は、中庭で食べてみよう!




「よし、思い立ったが吉日」




私はお弁当が入った包みを持って立ち上がる。



今日は唐揚げが入ってるらしいからあとで黒葉さんに写真撮って自慢しよう。



するとそのとき、不意に声をかけられた。




「刹菜ちゃん!」



「え?」




話したことのない、いわゆる一軍女子という子たちだった。



はっ……もしかしてもう私不潔じゃないから話しかけにきてくれてる⁉︎



どうしよう、めっちゃ嬉しい。



喜びで声が震えそう。



クラスメイトの限界オタク状態になっている私には気づかず、クラスメイトちゃんたちは口を開いた。




「うちらと一緒にご飯食べない?大人数で食べた方が絶対美味しいよ!」



「いいんですか!!!」



「う、うん。いいけど、なんでそんな食い気味……?」




クワッと目をかっ開いて輝かせた私。でもそんな私に向けられる目は、不潔時代よりもずっと親近感あふれるものだ。



死ぬまでにやりたいことトップ100(今作った)のうちの一つをもう達成!!クラスメイトとお昼を食べる!!



ああ幸せ!無理矢理輪の中に入れてもらうんじゃなくて、クラスメイトの方から誘ってもらえるなんて!




「じゃあ行こうか、刹菜ちゃん」



「うん!」




気を取り直して笑顔になったクラスメイトちゃんたちの隣に並びつつ、中庭に向かう。



尊都さんと会ってから、生活環境もいいし友達もできた。黒葉さんっていういい知り合いもできた。



いいことだらけだなあ、あの日から。



そんなふうにほくほくしていると、隣を歩いているクラスメイトちゃんの一人が話しかけてきてくれた。




「そういえば、刹菜ちゃんって急になんか制服とかも新しくなったよね?いいバイトでも見つかったの?」



「あ!それ私も気になる!私今やってるバイト給料安くてさー!」




あ、やっぱりそれ気になるか。



もしかしたら聞かれるかなあとは思ってた。というか聞かれるだろうなと思ってた。



けど、私は。




「ごめん、バイトじゃなくてさ」



「え、違うの?」



「うん。最近やっと生活保護のお金の給付が始まったんだ」




用意しておいた答えを言うと、みんなが「なるほど」という顔をした。



尊都さんが何者であるのか、私は知らない。



司書先生も、そして尊都さんと会話をした日に尊都さんを目にしていた生徒も知らなかった。



もしかしたら、ただ「知らない」だけかもしれないけれど、もしかしたら尊都さんが名字や仕事内容を「隠している」可能性もある。



やっぱり現状を無闇やたらに人に言いふらすのは良くないだろうから、ここは誤魔化しておかないとね。




「いろいろ大変だったんだね、刹菜ちゃん」




お弁当を広げながら、最初に話しかけてきてくれた子が言う。



目には純粋に心配の色が浮かんでいるのがわかって、心配されていることにちょっとだけ嬉しさを感じてしまった。



そして、そんなその子のお弁当には、タコのような形に切られたウインナーが入っていた。




「すごいね刹菜ちゃんは。私なら途中で心折れちゃいそうだよ。はい、これリスペクトのタコさんウインナー」



「え、くれるの⁉︎」



「もちろん。いっぱい食べてそのガリガリの体を健康にしてね」




具材をくれた子のお弁当からすみかをお引越ししてきた「タコさんウインナー」をまじまじと見つめる。



うおおおお………これが「具材交換」というやつか!やりたいことトップ100のうちの一つをまた達成してしまった!




「じゃ、じゃあじゃあ、私の具材も要る?一個あげるよ!」



「そしたら意味ないじゃん!いっぱい食べてって言ってあげたのに」



「はっ⁉︎たしかに……」




いけないいけない、やりたいことリストに囚われて友人の気遣いを無駄にするところだった。



じゃあ具材交換はまた、お預けかな。



――と思っていると、他の子が私の肩に手を乗せる。




「とか言ってみっちー、ダイエット中だから断ってるだけっしょ!」



「みっちーがいらないんだったらうちらが交換するもんね!刹菜ちゃん、そこの卵焼きとうちの枝豆交換せん?」



「ちょっと!枝豆じゃ割に合わないしそれあたしが狙ってたやつ!」



「知るか!早い者勝ちじゃ!」




ギャーギャーと騒ぐみんなの顔は、等しく明るい。



ああ、青春だ……これが噂に聞くアオハルってやつか。



……楽しいなあ。尊都さんとの出会いをきっかけに、私の日常が変わっていく。




「ん?どうしたの、刹菜ちゃん?」




急に黙り込んだ私の顔を、何気なく覗くクラスメイトちゃん。



それがまた嬉しくて、私はニヤニヤを抑えきれずに笑った。




「なんでもない!」