今夜、星影を溶かして



「まず最初に。刹菜が尊都と合流した場所の周辺を調査したら、大手の違法取引所の支店が見つかった。大方、場所がバレないように山奥に作ってたんだろうな。今まで繁華街の地下とかだったから、見つけんのが遅くなった」



「俺たちが向かった頃には、もう誰もいなかったよ。店内に監視カメラがつけられてた形跡はあったんだけど、取り外されてた。今はネット上のクラウドに映像を保存してる可能性を考えてネットを調べてるとこ」




……へえ。結構本格的に調べてるんだね。



ネットワーク上さえも見るとは、本気度がすごい。



やっぱり大規模ビジネスを追う人は本格的だ。



とまあ、私が感心している間にも、話はどんどん進んでいく。




「刹菜は電話で、警察っぽい人が来てたみたいで抑えてもらってる、って言ってたよね」



「はい。おかげでその場から離脱できました」



「……そう、か」




尊都さんの言葉に頷くも、黒葉さんの声や尊都さんの表情はすっきりしない。



腑に落ちないところがあるようだ。




「……実は、この街で警察はほぼ力を持たないんだ」



「!」



「違法店の取り締まりはおろか、暴走族を抑えるのと事件の調査に手一杯みたいで、最近は人身売買の罪で逮捕したのを見かけない」




……でも、じゃあどうして?



誘拐犯たちも「サツか!」って言ってたし、私も、助けてくれた人の物言いで「警察か」って思ったのに。



警察じゃなかったってこと?




「そいつ、なんか言ってたか?」



「えっと……『人身売買してるの聞いたから来たらマジでやってんじゃん』みたいなことを言ってました」



「……ふむ」



「あと、私を売ろうとしてた2人に、拳銃を向けてました」




そう、そうだ。



銃を向けていた。だから私服警察官だと思ったのだ。



でも考えてみれば、こんな街なんだから警察官以外にももしかしたら、銃を携帯している人くらいいるかもしれない。




「銃、ねえ……」



「……もしかしてBB弾だったとか?」



「………………誘拐犯に向けてBB弾はねえんじゃねえか……?」



「ですよねえ」




それに、そうだったらすぐにわかりそうだ。なんかこう、質感がおもちゃっぽかったとかで。



でもわからなかった。つまり、多分、おそらく、あれは本物の銃だった……のかもしれない。




「でも実弾は手に入りにくいし、空砲だった可能性は否めないかもね」




尊都さんはため息をつきながらそう言った。



尊都さんでも予測の域を出ないあたり、今の状態だと手がかりがないらしいな。




「とにかく、その助けてくれたって男に会いてえところだな。なんか特徴はあったか?顔に傷があったとか金髪だったとか」



「うーん……そうですねえ……髪色は栗色でした。あと地味に死んだ目でしたよ。裁かれた魚の目みたいでした」




びっくりするくらい温度がなかった。



単純に誘拐犯を軽蔑してただけかもしれないし、違うかもしれない。手がかりは少ない。




「でもそうだ、あの人がいたのはお店の入り口からちょっとだけ離れた場所でした」



「!」



「監視カメラの位置によっては、後ろ姿くらいは映っているかもしれません」




店内に監視カメラの痕跡はあると、さっき尊都さんは言っていた。



そこそこ大きい建物だったとはいえ、入り口くらい監視カメラがあってもおかしくないはずだ。



それを警戒して、私は顔を隠しながら逃げたわけだし。




「なるほど。それじゃあとりあえず、監視カメラのデータを探すところからだね」



「だな」




だいたい話はまとまったようだ。



方針を決めたらしい2人は、よし、と気合を入れたふうに呟いて、ソファから立ち上がる。



どうやら、私を助けてくれた男の人に話を聞く方向で進めるみたい。




「話してくれてありがとう、刹菜。今日は疲れただろうから、ゆっくり休んで。また夕食でね」



「長居して悪かったな。さんきゅ、刹菜」



「はい、お役に立ててよかったです」




手を振って部屋から出ていく尊都さんと黒葉さんを見送って、私はなんとなくそのままソファにもたれかかった。




『お前は俺に雇われながら笑って過ごしてて。迷惑だなんて考えないで。次そういうこと考えたらおやつ抜きだからね』




たしかにいろいろあったけど、それ以上に嬉しいことがいっぱいあった一日だった。



攫われたりカフェに行ったり忙しかったから、いつの間にかもう外は暗い。



今日は宿題とちょっとだけ問題集を解いて、そしたらすぐ寝た方がいいだろう。



……迷惑だなんて考えないで、か。




「おやつ抜きは……困るもんね」




おやつを抜かれて、また虎みたいなお腹の音がしたら大変だ。



だからそんなことを考えるのは今日でおしまいにしよう。



そう決意して、私は勉強机に向かっていくのだった。