「おかえりなさいませ、刹菜様」



「あっ、どうもご丁寧に……」




目立たない場所に停めてあった超目立つ高級黒塗り車に乗り込めば、運転手さんはそう言って迎えてくれた。



相変わらず品のよろしいこと。高級な空間に来ると、自分がまだ穢らわしいような気がしてしまう。




「…あの、私は尊都さんに雇われている身の上ですし、皆さんと同じ立場でしょう?」



「?」



「それに私は年下ですし、普通に呼び捨てでタメ口とか…」




ちょっと前まで底辺中の底辺だったのに丁寧な扱いをされても恥ずかしいだけなのだが。



そう伝えると、運転手さんはやわらかく微笑んで首を横に振った。




「確かに私は尊都様に雇われておりますが、刹菜様とは立場が違うので、それはできません」



「……立場?」



「はい。尊都様の『お気に入り』は、元々どんなに汚れていようと欠けていようと、それだけで特別になるからです」



「……」




それだけで特別になる、か。



わかっていたが凄まじい人だな、尊都さんって。



『尊都様のお気に入り』が最高のレッテルになるなんて、世間知らずの私以外全員知ってるような立場の人なのかな?



…でも、尊都さんが学校に現れたとき、生徒のみんなは「誰かわからないけどすごくイケメン」っていう反応だったしなあ……。



考え込む私をよそに、出発した運転手さんはさらに続けた。




「刹菜様。尊都様が選んだ『お気に入り』の中で、人の『お気に入り』はあなたが初めてなんですよ」



「え?」



「企業の製品か食べ物。今までのお気に入りはそんなところです」



「すっくな」



「私もそう思います。ですがそれほどまでに、あのお方は何もかもに『興味がなかった』」




それでもあの日、尊都さんは私に興味を持った。



……まあそりゃそうか。目の前で手枷と足枷壊しちゃったもんな。



あれで「わーすごーい」で終われるなら大したものだ。



でもそれはそれとして、何もかもに興味がなかった、か。




「あの方が人を拾って来るならまだしも、あなたのように高待遇するのは初めてなのですよ」



「そうなんですね……」




なんだか変な雰囲気になってしまったが、要するに私はラッキーということか。



その期待に応えられるように、ペットの役割はちゃんと果たさないとね。



そう思いながら、私はゆっくりと視線を窓の外に移した。