デートの日が近づくにつれて

胸がそわそわしてた

 

──練習…練習だから。

これは役作りの練習だから

 



何度もそう言い聞かせてたけど…


頭の中はそれどころじゃなかった。

 

 

_______前日

 

「「え?疑似デート!?練習で!?」」

 

友達に軽く話すと
案の定、食いつかれた…

 

「ほ、ほんと練習だから!」

 

「…いやいやいや。
奈々、そういうのが一番危ないんだってば」

 

「だから、ちがうってば…」

 

「…で?服は?準備した?」

 

「……まだ…」

 

「ほらきた!服だよ服!」

 

そのまま服選びまで巻き込まれていった

 

「頑張りすぎはダメ。でも手抜きもダメ。
 …わかる?」

 

「わかってるよぉ…」

 

あーだこーだと悩んで
何度も試着を繰り返して
友達のOKが出たのは――

 

ナチュラルだけど
少し大人っぽいブラウスに
淡いピンクのロングスカート

 

「ん。これだね。奈々っぽい自然さ出てるし」

 

「ほんと…?変じゃない?」

 

「うん。むしろ可愛い」

 

鏡の中の自分を何度も確認しながら
なんとか決めた

 

 

______当日

 

待ち合わせは人通りの少ないカフェ前

 

もちろんちゃんと変装もしてた

 

大きめのキャスケットにマスク

髪も少し巻いて雰囲気を柔らかくしてる

 

──完全に芸能人仕様…だな
 



少し早めに着いた私は
スマホを握りながら時計を何度も確認してた

 

緊張しすぎて手汗までじっとりしてる…

 

「……うぅ」

 

と、小さく息を吐いたところで

 

ふと視線を上げた先に
涼真くんの姿があった

 

__サングラスに深めのキャップ
__黒のパーカーに細身のパンツ

_シンプルなのに妙に自然に大人っぽく見える

 

「おはよ」

 

「おはよ…!」

 

自然に笑顔が出たけど
胸の中はドキドキしてた…

 

「奈々、ちゃんと変装してんじゃん」

 

「だって…身バレしたら迷惑かけちゃうから…」

 

涼真くんが少しだけ笑った

 

「…そんなん思ってねぇよ。
服…似合ってんじゃん」

 

「え…ありがと」

 


…耳まで熱くなるのを感じた

 

涼真くんは
そのまま何気なく私を一度だけさっと見たあと
すぐに目線を逸らして空を見上げた

 

ほんのわずかに
深呼吸するように小さく息を吸ってる

 

──たぶんだけど、少し緊張してる?

 

でも

私はそこに触れず
自分の緊張を必死に抑えてた

 

「じゃ、行こっか」

 

「うん…!」

 

自然に並んで歩き出す

 

休日の柔らかい陽射しが
街の空気を優しく包んでた

 

練習ってわかってるのに
心臓の高鳴りが全然収まらなかった