きらめき夢界ものがたり ~ナナミと四つのカギ~

 塔の階段をのぼるたびに、空気が少しずつ重くなる。
 無言になった菜々美と由香里は、互いの足音だけをたよりに進んでいた。

 最上階についたとき、そこにはひとつの扉が立ちはだかっていた。
 古びた木でできた扉には、魔法陣のような紋章がきざまれていて、中央にカギ穴がひとつ光っている。

 「ここが、最後の部屋……」

 そう言った由香里の声は、どこか緊張に満ちていた。
 その扉が音もなくひらくと、中には円形の部屋が広がっていた。

 部屋の中央に浮かんでいたのは、一本の杖。
 その杖が、ふいに声を発した。

 「よくぞここまで来た。だが、この世界を開くには“心の奥”を見せなければならぬ」

 すると、杖の下に一冊の本が現れ、そこから文字が浮かび上がった。

 最終問題
 あなたは、たいせつな人のために、自分の夢をあきらめられますか?

 A はい
 B いいえ
 C どちらとも言えない

 菜々美は言葉を失った。
 由香里も、すぐには答えられなかった。

 「これ……答えが正しいかじゃなくて、自分がどう思っているかってことだよね」

 「そう。でも、怖い。どんな気持ちを選んでも、間違ってる気がしちゃう」

 菜々美は、自分の胸に問いかけた。
 引っ越しで離れた友だち、家族の都合で変わった環境、夢を語るのがどこか気恥ずかしかったこと。

 でも、この夢界に来て、出会った人たちがいた。
 泣いていたプリンセス、踊れなくなったバレリーナ、歌を失ったマーメイドたち。
 彼女たちはみんな、「夢を持っていること」をあきらめていなかった。

 「私は……」

 菜々美はまっすぐ声に出した。

 「いいえ。誰かのためにがんばることも大切だけど、自分の夢を捨てるんじゃなくて、いっしょに進める道を探したい。夢はあきらめたくない」

 その瞬間、部屋にやさしい風が吹き、杖が光を放った。
 空中に浮かぶ魔法陣がほどけ、中央に“光のしずく”のようなカギが現れる。

 「第四のカギだ……!」

 由香里が目を見開いて言った。

 そのときだった。

 菜々美の頭の中に、ふいに響いた声があった。

 「夢を選び、道をひらいた者よ。その心には、まだ迷いがある」

 視界がかすんだ。

 菜々美はカギに手を伸ばそうとしたが、足元がふらりとゆらぐ。
 塔の空間がゆっくりと回りだす。

 「菜々美!」

 由香里が支えようと手をのばすが、その手はすりぬけた。

 まるで、菜々美の存在だけが夢界の外へ引きもどされていくようだった。

 「わたし、まだ……大丈夫……!」

 そう言いかけた声は、途中でかき消され、菜々美の意識は真っ白な光に包まれていった。