「菜々美さん、新しいクラスにようこそ!」

 キンコンカンコン、とお昼のチャイムが鳴り終わると同時に、担任の先生が紹介したのは、ひときわまっすぐな瞳の女の子だった。
 菜々美はぺこりと頭を下げる。制服のスカートのすそが、ふわっと揺れた。

 「えっと、菜々美です。お話するのがすきです。仲よくしてくれるとうれしいです!」

 その声に、教室がぱっと明るくなった気がした。
 だけど、心の中ではちょっぴり不安がうずまいていた。

 (大丈夫かな、新しい学校……)

 春のはじまり。菜々美は、家族の引っ越しでこの町にやってきたばかり。
 なれない街、なれないクラス、なれない毎日。
 だからこそ、笑顔を忘れちゃいけないと思った。お母さんが言っていたように、
 「笑顔は魔法よ」って。

 その日のお昼休み、教室でお弁当を広げるタイミングが少し遅れてしまった菜々美は、食べる場所を探して教室を出た。

 「どこか、静かで落ち着けるところ……」

 迷ったすえにたどり着いたのは、校舎のいちばん奥にある図書室。
 少し古い木のドアを開けると、やさしい紙の匂いと、光をたたえた静けさが包みこんでくれる。

 (わぁ……なんだか、秘密の場所みたい)

 誰もいない図書室の窓ぎわに、小さなテーブルとイスがあった。
 そこにちょこんと座ると、カバンからお弁当を取り出す。
 食べているあいだも、本棚の並びが気になって仕方がなかった。

 「食べ終わったら、ちょっとだけ、見てみようかな……」

 そのとき――

 カタリ。

 奥の棚から、何かが落ちる音がした。風もないのに、ひとりでに。

 「……え?」

 おそるおそる近づいていくと、そこには色あせた金の文字が刻まれた、大きな本が落ちていた。
 まるで、菜々美に見つけられるのを待っていたように。

 『夢をひらく本』

 表紙にそう書かれている。

 「夢を、ひらく……?」

 手に取った瞬間、本がふわりと光った。

 「きゃっ!」

 あわてて手を離そうとするも、本のページが勝手にひらかれていく。
 そこからあふれ出すまばゆい光。ページの文字が空中に舞い上がり、まるで風が吹いたように髪がなびいた。

 菜々美の身体が、ふわりと浮いた。

 「えっ、えっ、まって、なにこれっ!」

 そして――

 光に包まれて、菜々美の姿は図書室からすうっと消えた。