うちのかわいい愛猫が、満月の夜にイケメンに!? 主従関係になるなんて聞いてません!

 十六夜堂を出た、わたしとレンゲは、さっそくヤクモとシロツメに着いていく。
「ヤクモ。どこに向かってるの?」
「ここからすぐ近くのアパートだよ」
「アパートって、花かずらアパート?」
 三日月通りから近くのアパートなら、花かずらアパートしかない。
「けっこう有名だよね。『出る』って」
「なにが出るんだ?」
 走りながら、わたしの横に並んだレンゲ。
 わたしは、わざと両手を脱力させて、ゆらゆらとゆらした。
「おばけ、だよ」
「あいかわらずの、ホラーチャンネルずきだな。チカナ」
 ヤクモが「ふふっ」と笑う。
 すると、レンゲがつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「幽霊が出るアパートなんて、危険じゃないのか」
「レンゲ、怖いの? だったら、帰ってもいいんだよ?」
 シロツメが、心配そうにレンゲの顔を覗きこむ。 
 どうやら本気で心配しているみたいなんだけど、レンゲは心底、不愉快そうにシロツメから顔をそらした。
 ヤクモが、シロツメの肩をこつん、とつついた。
「シロツメ。レンゲが怒ってるぞ。おまえがからかってきたって」
「えっ。ぼく、からかってるつもり、なかったんだけど」
 わたしも、レンゲとシロツメのあいだに入った。
「シロツメとなかよくしてよ。レンゲ」
「ムリだな。あのイヌとは、なかよくできない」
「ええ……」
 走りながら、おしゃべりしているうちに、いよいよ花かずらアパートに到着した。
 木造の建物に、びっしりとツタがはっている。
 そのせいで、おどろおどろしい雰囲気が、アパートをおおいつくしている。
「近くで見ると、どう見ても、おばけ屋敷だ……」
 思わず、声が引きつる、わたし。
 それにしても、通報してきた、キノ・キランのすがたが見えない。
 アパートの門は、がっしりと閉められている。
 緊急通報っていわれて、すぐに走ってきたのになあ。
 シロツメが、くんくんとあたりのにおいを、かぎはじめた。
「……いやなにおいがする」
「いやなにおいって?」
「おばけのにおい」
「え? おばけって、においあるの?」
 シロツメがうなずく。
「あの世の花のにおいがするよ」
「それって?」
「蓮の花だよ」
「へえー」
 思わぬ情報を知れて、わたしはおばけが出るアパートに断然、興味がわいてくる。
 すると、後ろにいたレンゲの機嫌が、なぜかさっきよりもわるくなっていることに気づいた。
「レンゲ。どうしたの?」
「なんでもない。……今度は、ちゃんとチカナの役にたつ」
 いい終わるや否や、レンゲはピョンと、バネのように飛びあがり、花かずらアパートの門の上に降りる。
 すごい。さすが、猫。とんでもない跳躍力だ。
「レンゲ! 何か見える?」
 門の上のレンゲに呼びかける。あたりをキョロキョロと見渡す、レンゲ。
「ああ、見える」
「何が見えるー?」
「幽霊……だな」
「……はい?」