三日月祭のにぎわいのなかを、わたしはようやく家に帰ってきた。
屋外テーブルに置かれた、あたたかいランプの光と、おいしいお菓子。
優しい月の光に照らされて、みんなが笑いあっている。
さっき、タンポポが、目を覚ました。
いま、ヤクモとシロツメが、花かずらアパートまで送って行っているところだ。
家に帰ると、お母さんがレンゲを探していた。
わたしの部屋で寝てるよ、といったら「安心した」と、キッチンの掃除をはじめた。
レンゲが、キノ・キランになったことを、わたしだけが気づいている。
お風呂をすませ、後は寝るだけ。
でも、頭がぐるぐると渦巻いていて、ベッドに座っても、なかなか寝る気分にならない。
まだ、あの言葉が、脳内にこびりついて離れないんだ。
わたしは、レンゲの飼い主にふさわしいのかな。
「チカナ」
猫のすがたのレンゲがベッドに、ぼふんと飛び乗った。
「何を考えてる?」
「えっと、何も」
「嘘をつくな」
「嘘なんかじゃ……」
レンゲは、ふかふかのしっぽを、わたしの手首にしゅるりと巻きつけてきた。
「どれだけ、いっしょにいると思ってる? おまえの考えてることなんて、お見通しだ」
ジッとわたしを見つめると、まっすぐにレンゲはいった。
「いい子だから、いまは眠れ」
「……わかった」
仕方なく、ベッドに横になると、レンゲがとことこと、枕元にやってきた。
「珍しい。ここで寝るの?」
「ああ」
いつもは、お気に入りのクッションで寝てるのに。
どういう風の吹き回し?
「おまえは危なっかしいから、そばにいてやらないといけないと、今日学んだからな」
「レンゲのほうが、危ない目にあってたのに。ケガ、ほんとうに大丈夫なの?」
巨木に叩きつけられていたのに、レンゲはほとんど無傷だった。
キノ・キランが頑丈というのは、ほんとうらしい。
「ああ。だから、おまえは安心して、おれに守られていろ」
「……わかったよ。大きな、イケメン猫さん」
笑うと、心のなかのモヤモヤが、少しだけ晴れた。
レンゲのおかげだ。
「ありがとう、レンゲ」
「……ああ」
まどろむ頭の上に、ふわふわのしっぽのような感触を感じる。
やさしく、撫でてくれているみたいだ。
そのあたたかさに身を委ねていたら、やっぱりすっかり疲れていたようで、あっというまに眠りについてしまった。
■
氷漬けにされたナズナさまが目覚めないあいだも、霜月の宿によるキノ・キランの捕獲は続いていた。
わたしたちも、満月の夜にキノ・キランになりそうな動物たちを探して、保護をし続けた。
連れ去られそうになったら奪還し、見つからないよううちに帰した。
モクレンは、ナズナさまがいないので調子が出ないのか、ここ最近ずっとキセルを吸っている。
ヨモギのいいかおりで、モクレンの居場所がすぐにわかるようになるほどだった。
そして、ナズナさまが氷のなかで眠り続けて、数週間がたったころ。
レンゲといっしょに十六夜堂にきたら――ドダダダダッと、シロツメが、いきおいよくわたしの目の前に飛びこんできた。
「ナズナさまが目を! 覚ましたんや、来て!」
「――えっ!」
とたん、店の奥へ戻っていくモクレンを、わたしたちも追う。
ナズナさまの寝室に着き、ゆっくり引き戸を引く。
「床が水浸し……?」
「おそらく、目覚めたナズナの、ヤタガラスの炎で溶かされたんだろう」
レンゲが、いった。
モクレンはというと、水浸しの床に置かれたベッドのそばに立っていた。
びしょびしょに濡れた黒いカラスを、やわらかいタオルで拭いてやっている。
あのカラスって……。
「もー、ムチャしすぎですからっ! ほんま、ええ加減にしてくださいよ!」
「ごめんなあ。気いつけるさかい。かんにんやで」
あのカラスが、ナズナさまだったんだ。
温度を低めに設定したドライヤーで、ナズナさまを乾かしはじめた、モクレン。
そのとき、ようやくヤクモが寝室に入ってきた。
「ナズナさま、寝坊しすぎですよ」
「ほんまに寝坊しすぎたわ。みんなに、心配かけてもうて……」
カラスすがたのナズナさまだけど、シュン、とうなだれているのがわかる。
「ナズナさまが起きてくれた、それだけでいいんです。な? モクレン」
ヤクモがいうと、モクレンは黙ってうなずいた。
ナズナさまは安心したように、ふわりと羽を震わせた。
店に戻ると、カウンターのなかから、シロツメの声がいった。
「チカナちゃん。ごはん、食べていきなよ」
「え? いいの?」
「うん。ヤクモがいっしょに食べたいからって余分に――」
「はーい。そこまでな?」
シロツメの後ろに、目がすわっているヤクモが、ぬっと現れた。
い、いつのまに?
「気配くらい出しなよ。キノ・キランかとおもった」
「人間でも気配くらい消せるだろ?」
「ヤクモって、何者~?」
シロツメとヤクモの漫才を聞きながら、わたしとレンゲはカウンターテーブルに座った。
モクレンと、カラスすがたのナズナさまも、後ろのテーブルに着いている。
「さあ。ナズナさまの回復を祝って、みんなでごはんを食べよう」
ヤクモの声に合わせて、みんなで食事のあいさつをする
キノ・キランのみんなには、それぞれの好物。
人間には、玄米、根菜と油あげのみそ汁、ナスのあげびたし、ひじきと大豆のチーズいりたまご、鮭のホイル焼き。
ヤクモが「ふふふ~」と、ニヤニヤしながらいった。
「デザートは、どんぐりと雨水のクッキーだよ」
「うおおっ」
モクレンのこの反応。
もしかして、大好物?
ご飯を食べ終わるころ、ナズナさまが人型になって、店に戻ってきた。
白地にツバキ柄の着物に、赤いハカマ。
その上から黒レースの道中着、いわゆる着物用のコートを着ている。
ちょうどご飯を食べ終わったわたしは、席を立って、ナズナさまに駆け寄った。
「もう、人型に戻って、大丈夫なんですか?」
「おん、世話かけたなあ……おや。なあ、チカナ」
「はい?」
「あんたのレンゲが、なんかやっとるで。よう、見てみ」
ナズナさまが、ニヤリと微笑む。
わたしより先に食べ終わったレンゲは、近くのソファに座り、窓から外を見ていた。
そんなレンゲは、空の月を見あげながら、爪とぎの動作をしている。
しかし、それは猫のときにするのとは違う。
なぜか空中で、引っかく動きをしているのだ。
声をかけようとした、その時。
レンゲが引っかく動きをしていた、何もない空間から突然、何かがボトンと落ちてきた。
それは、レンゲがすきなクッションだ。
うちのリビングに置いてあるはずの。
「ええっ? ど、どうしたの、これ!」
驚く、わたし。
しかし、レンゲのほうも呆然としている。
あぜんとしながら、落ちたクッションを取りあげた。
間違いない。
レンゲのお気に入りのクッションだ。
それを見ていたナズナさまが、一気に笑い出した。
「ハハハッ! こりゃあ、すごい。爪とぎ? こないな、ちから見たことないわ」
「いつものように爪とぎをしただけだが……?」
笑われたことに、ムッとしているレンゲ。
「これは、キノ・キラン特有の能力や。シロツメも持っとるやろ? 『柴のムチ』のちからや」
花かずらアパートで、タルヒさんを捕まえてくれたシロツメの柴。
「キノ・キランになったものが、月から授かるといわれている、特殊能力。それは、個体ごとに違うといわれているんや」
「それじゃあ、レンゲの能力は」
「『爪で空間を裂く』ちから。どう使うかは、あんたら次第や」
なんだか、すごそうなちからを手に入れたレンゲに、なんだかわたしは誇らしくなる。
「レンゲってば、そんなにそのクッションのことがすきなの?」
いうと、レンゲはクッションではなく、わたしのほうをまっすぐに見つめ、ふわりと笑った。
「当たり前だ。チカナが選んでくれたものだから」
まぶしそうに目を細めて、わたしを見る瞳は、月のような黄金色に、複雑な紫や青が混じっている。
宝石のようにきらきらと輝いていて、わたしは少し照れくさくなる。
「そ、そっか。ありがとう」
「ああ」
にこっとほほ笑む、レンゲ。
それにしても、『爪で空間を裂く』能力か。
猫はよく爪とぎをするけれど、空間を裂いて、どうするんだろう?
この能力でシロツメみたいにうまく戦うには、どうすればいいのかな。
やっぱり……わたしじゃ、検討もつかない。
「ナズナさま。このレンゲの能力、どうやって使えばいいんでしょうか」
「ヤクモに相談してみたらええんちゃう」
そっか。ヤクモは、キノ・キランとのパートナーの先輩だもん。
いろいろ教えてくれるかもしれない。
「チカナ。キノ・キランのパートナーとして、成長してきたんとちゃう?」
「えっ……?」
ナズナさまにいわれ、大げさにギクリと反応してしまう。
「やっぱり、チカナは十六夜堂の一員にぴったりやわ。期待しとるよ」
わたしは「ありがとうございます」と、ナズナさまに頭をさげて、レンゲとヤクモがいるらしい中庭の菜園に向かった。
ナズナさまの住まいがある、十六夜堂の中庭。
実は、そこに行くのは、これが初めてだった。
ナズナさまと別れたあと、わたしはレンゲのほうをチラリと見あげた。
わたしの視線に気づいたレンゲが、優しくわたしを見おろした。
「……どうした?」
「なんだか、なし崩し的に、十六夜堂のキノ・キランになっちゃったね。まだ、十六夜堂の一員になるって、はっきり決まってないと思ってたんだけど」
「そうみたいだな。でも、おれはもう、チカナは十六夜堂の一員になりたいものなんだと思っていた。キノ・キランのちからになりたい、といっていただろう?」
「うん。でも、レンゲは……いいの?」
こっそりと、レンゲを見る。
すると、レンゲは相変わらず、わたしをきらきらとした瞳で見つめている。
「おれは、チカナが危険な目にあうことには、反対だ。でも、おまえがやりたいっていうんなら、それでいい。おれが、おまえを守ればいいだけだ」
「……じゃあ、十六夜堂の一員になってもいいの?」
「ああ。安心しろ。おれがいる限り、おまえに危険はおとずれない」
屋外テーブルに置かれた、あたたかいランプの光と、おいしいお菓子。
優しい月の光に照らされて、みんなが笑いあっている。
さっき、タンポポが、目を覚ました。
いま、ヤクモとシロツメが、花かずらアパートまで送って行っているところだ。
家に帰ると、お母さんがレンゲを探していた。
わたしの部屋で寝てるよ、といったら「安心した」と、キッチンの掃除をはじめた。
レンゲが、キノ・キランになったことを、わたしだけが気づいている。
お風呂をすませ、後は寝るだけ。
でも、頭がぐるぐると渦巻いていて、ベッドに座っても、なかなか寝る気分にならない。
まだ、あの言葉が、脳内にこびりついて離れないんだ。
わたしは、レンゲの飼い主にふさわしいのかな。
「チカナ」
猫のすがたのレンゲがベッドに、ぼふんと飛び乗った。
「何を考えてる?」
「えっと、何も」
「嘘をつくな」
「嘘なんかじゃ……」
レンゲは、ふかふかのしっぽを、わたしの手首にしゅるりと巻きつけてきた。
「どれだけ、いっしょにいると思ってる? おまえの考えてることなんて、お見通しだ」
ジッとわたしを見つめると、まっすぐにレンゲはいった。
「いい子だから、いまは眠れ」
「……わかった」
仕方なく、ベッドに横になると、レンゲがとことこと、枕元にやってきた。
「珍しい。ここで寝るの?」
「ああ」
いつもは、お気に入りのクッションで寝てるのに。
どういう風の吹き回し?
「おまえは危なっかしいから、そばにいてやらないといけないと、今日学んだからな」
「レンゲのほうが、危ない目にあってたのに。ケガ、ほんとうに大丈夫なの?」
巨木に叩きつけられていたのに、レンゲはほとんど無傷だった。
キノ・キランが頑丈というのは、ほんとうらしい。
「ああ。だから、おまえは安心して、おれに守られていろ」
「……わかったよ。大きな、イケメン猫さん」
笑うと、心のなかのモヤモヤが、少しだけ晴れた。
レンゲのおかげだ。
「ありがとう、レンゲ」
「……ああ」
まどろむ頭の上に、ふわふわのしっぽのような感触を感じる。
やさしく、撫でてくれているみたいだ。
そのあたたかさに身を委ねていたら、やっぱりすっかり疲れていたようで、あっというまに眠りについてしまった。
■
氷漬けにされたナズナさまが目覚めないあいだも、霜月の宿によるキノ・キランの捕獲は続いていた。
わたしたちも、満月の夜にキノ・キランになりそうな動物たちを探して、保護をし続けた。
連れ去られそうになったら奪還し、見つからないよううちに帰した。
モクレンは、ナズナさまがいないので調子が出ないのか、ここ最近ずっとキセルを吸っている。
ヨモギのいいかおりで、モクレンの居場所がすぐにわかるようになるほどだった。
そして、ナズナさまが氷のなかで眠り続けて、数週間がたったころ。
レンゲといっしょに十六夜堂にきたら――ドダダダダッと、シロツメが、いきおいよくわたしの目の前に飛びこんできた。
「ナズナさまが目を! 覚ましたんや、来て!」
「――えっ!」
とたん、店の奥へ戻っていくモクレンを、わたしたちも追う。
ナズナさまの寝室に着き、ゆっくり引き戸を引く。
「床が水浸し……?」
「おそらく、目覚めたナズナの、ヤタガラスの炎で溶かされたんだろう」
レンゲが、いった。
モクレンはというと、水浸しの床に置かれたベッドのそばに立っていた。
びしょびしょに濡れた黒いカラスを、やわらかいタオルで拭いてやっている。
あのカラスって……。
「もー、ムチャしすぎですからっ! ほんま、ええ加減にしてくださいよ!」
「ごめんなあ。気いつけるさかい。かんにんやで」
あのカラスが、ナズナさまだったんだ。
温度を低めに設定したドライヤーで、ナズナさまを乾かしはじめた、モクレン。
そのとき、ようやくヤクモが寝室に入ってきた。
「ナズナさま、寝坊しすぎですよ」
「ほんまに寝坊しすぎたわ。みんなに、心配かけてもうて……」
カラスすがたのナズナさまだけど、シュン、とうなだれているのがわかる。
「ナズナさまが起きてくれた、それだけでいいんです。な? モクレン」
ヤクモがいうと、モクレンは黙ってうなずいた。
ナズナさまは安心したように、ふわりと羽を震わせた。
店に戻ると、カウンターのなかから、シロツメの声がいった。
「チカナちゃん。ごはん、食べていきなよ」
「え? いいの?」
「うん。ヤクモがいっしょに食べたいからって余分に――」
「はーい。そこまでな?」
シロツメの後ろに、目がすわっているヤクモが、ぬっと現れた。
い、いつのまに?
「気配くらい出しなよ。キノ・キランかとおもった」
「人間でも気配くらい消せるだろ?」
「ヤクモって、何者~?」
シロツメとヤクモの漫才を聞きながら、わたしとレンゲはカウンターテーブルに座った。
モクレンと、カラスすがたのナズナさまも、後ろのテーブルに着いている。
「さあ。ナズナさまの回復を祝って、みんなでごはんを食べよう」
ヤクモの声に合わせて、みんなで食事のあいさつをする
キノ・キランのみんなには、それぞれの好物。
人間には、玄米、根菜と油あげのみそ汁、ナスのあげびたし、ひじきと大豆のチーズいりたまご、鮭のホイル焼き。
ヤクモが「ふふふ~」と、ニヤニヤしながらいった。
「デザートは、どんぐりと雨水のクッキーだよ」
「うおおっ」
モクレンのこの反応。
もしかして、大好物?
ご飯を食べ終わるころ、ナズナさまが人型になって、店に戻ってきた。
白地にツバキ柄の着物に、赤いハカマ。
その上から黒レースの道中着、いわゆる着物用のコートを着ている。
ちょうどご飯を食べ終わったわたしは、席を立って、ナズナさまに駆け寄った。
「もう、人型に戻って、大丈夫なんですか?」
「おん、世話かけたなあ……おや。なあ、チカナ」
「はい?」
「あんたのレンゲが、なんかやっとるで。よう、見てみ」
ナズナさまが、ニヤリと微笑む。
わたしより先に食べ終わったレンゲは、近くのソファに座り、窓から外を見ていた。
そんなレンゲは、空の月を見あげながら、爪とぎの動作をしている。
しかし、それは猫のときにするのとは違う。
なぜか空中で、引っかく動きをしているのだ。
声をかけようとした、その時。
レンゲが引っかく動きをしていた、何もない空間から突然、何かがボトンと落ちてきた。
それは、レンゲがすきなクッションだ。
うちのリビングに置いてあるはずの。
「ええっ? ど、どうしたの、これ!」
驚く、わたし。
しかし、レンゲのほうも呆然としている。
あぜんとしながら、落ちたクッションを取りあげた。
間違いない。
レンゲのお気に入りのクッションだ。
それを見ていたナズナさまが、一気に笑い出した。
「ハハハッ! こりゃあ、すごい。爪とぎ? こないな、ちから見たことないわ」
「いつものように爪とぎをしただけだが……?」
笑われたことに、ムッとしているレンゲ。
「これは、キノ・キラン特有の能力や。シロツメも持っとるやろ? 『柴のムチ』のちからや」
花かずらアパートで、タルヒさんを捕まえてくれたシロツメの柴。
「キノ・キランになったものが、月から授かるといわれている、特殊能力。それは、個体ごとに違うといわれているんや」
「それじゃあ、レンゲの能力は」
「『爪で空間を裂く』ちから。どう使うかは、あんたら次第や」
なんだか、すごそうなちからを手に入れたレンゲに、なんだかわたしは誇らしくなる。
「レンゲってば、そんなにそのクッションのことがすきなの?」
いうと、レンゲはクッションではなく、わたしのほうをまっすぐに見つめ、ふわりと笑った。
「当たり前だ。チカナが選んでくれたものだから」
まぶしそうに目を細めて、わたしを見る瞳は、月のような黄金色に、複雑な紫や青が混じっている。
宝石のようにきらきらと輝いていて、わたしは少し照れくさくなる。
「そ、そっか。ありがとう」
「ああ」
にこっとほほ笑む、レンゲ。
それにしても、『爪で空間を裂く』能力か。
猫はよく爪とぎをするけれど、空間を裂いて、どうするんだろう?
この能力でシロツメみたいにうまく戦うには、どうすればいいのかな。
やっぱり……わたしじゃ、検討もつかない。
「ナズナさま。このレンゲの能力、どうやって使えばいいんでしょうか」
「ヤクモに相談してみたらええんちゃう」
そっか。ヤクモは、キノ・キランとのパートナーの先輩だもん。
いろいろ教えてくれるかもしれない。
「チカナ。キノ・キランのパートナーとして、成長してきたんとちゃう?」
「えっ……?」
ナズナさまにいわれ、大げさにギクリと反応してしまう。
「やっぱり、チカナは十六夜堂の一員にぴったりやわ。期待しとるよ」
わたしは「ありがとうございます」と、ナズナさまに頭をさげて、レンゲとヤクモがいるらしい中庭の菜園に向かった。
ナズナさまの住まいがある、十六夜堂の中庭。
実は、そこに行くのは、これが初めてだった。
ナズナさまと別れたあと、わたしはレンゲのほうをチラリと見あげた。
わたしの視線に気づいたレンゲが、優しくわたしを見おろした。
「……どうした?」
「なんだか、なし崩し的に、十六夜堂のキノ・キランになっちゃったね。まだ、十六夜堂の一員になるって、はっきり決まってないと思ってたんだけど」
「そうみたいだな。でも、おれはもう、チカナは十六夜堂の一員になりたいものなんだと思っていた。キノ・キランのちからになりたい、といっていただろう?」
「うん。でも、レンゲは……いいの?」
こっそりと、レンゲを見る。
すると、レンゲは相変わらず、わたしをきらきらとした瞳で見つめている。
「おれは、チカナが危険な目にあうことには、反対だ。でも、おまえがやりたいっていうんなら、それでいい。おれが、おまえを守ればいいだけだ」
「……じゃあ、十六夜堂の一員になってもいいの?」
「ああ。安心しろ。おれがいる限り、おまえに危険はおとずれない」



