執着心がないはずの危険な男は少女を甘く囲い込む。

「ほら、俺は教えたけど。そろそろあんたの名前も教えてくれない?」

そんな噂がある男に自分の名前なんて教えたくない。

だけれど、この状況で断ればそれこそ何をされるか分からない。


白木 紗都(しらき さと)……」


「紗都ね。明日もここに来るの?」

「ここは貴方の場所だったんでしょ?」

私の質問に柊斗は答えずに、不機嫌そうに私の言葉に訂正を入れる。

「柊斗。俺の名前は貴方じゃない」

「……柊斗」

「うん、それで良いよ」

私はもう一度同じ質問を繰り返した。

「ここは……柊斗の場所だったんでしょ?」

「正確にはこの本屋の奥の部屋」

柊斗が指さしたのは、レジの奥にある(ふすま)が閉まっている部屋だった。