隣にいる理由を、毎日選びたい

 「……雑誌?」
 翌日の昼下がり。社内会議室で、プロジェクトチームに突然もたらされたのは、外部の編集プロダクションからの「取材オファー」だった。
 「はい。Z向け情報誌『nodo.(ノド)』から。今回のバズに関心を持ったようで、“恋愛を選ばない関係性”というテーマで特集を組むんですって」
 真壁がタブレットを見せながら説明する。画面には企画書のサムネイルと共に、見慣れた写真が掲載されていた。
 ──あの、長野での一枚。
 「掲載許可は、本人の判断に任せたい。断っても問題ないけど、これを機にプロジェクト自体の露出を増やすのもアリっちゃアリで」
 「……有栖川さん?」
 「……正直、微妙」
 凛ははっきり答えた。
 「写真がどうこうじゃなくて、“この関係性”を切り取られて使われるのが、ちょっと」
 「誤解を招くような構成になる可能性もありますからね」と悠人も続く。
 「いや、そのへんはこっちで監修入れる。変な表現にはならないよう、ちゃんと調整するつもりだよ。……とはいえ、無理強いはしない。断ってくれていい」
 その言葉を聞いて、ふたりは視線を交わした。
  どちらも、即答しなかった。

 その日の夕方。
 「取材の件、どう思います?」
 エレベーターを待ちながら、悠人がぽつりと聞いた。
 凛は、腕を組んで少しだけ考えこむ。
 「私は……“知らない誰かに関係を語られる”のって、すごく嫌。たとえ、それが事実でも」
 「僕も、そうです。何かを正確に伝えようとすればするほど、どこかで歪んでいく気がして」
 「なのに、断りきれないのって……たぶん、怖いんだと思う」
 「何が、ですか?」
 「“この関係が自分の中だけのものじゃなくなる瞬間”が」
 凛の声は静かだった。
 「……誰かに認められたい気持ちって、恋愛じゃなくても起こるじゃない? でも、それを“恋だ”って言われると、私はとたんに後ずさりしたくなるの」
 「わかります」
 「ほんとに?」
 「……はい。僕も、同じようなことを感じてました」
 会話が終わると同時に、エレベーターのドアが開く。
  だがふたりはすぐに乗らなかった。
 「掲載、受けましょう」
 先に口を開いたのは悠人だった。
 「“恋愛じゃない感情”も、ちゃんと世の中にあるって、証明したいですから」
 「……勇気あるね」
 「いいえ。正直、怖いです。でも、有栖川さんとだから、できる気がするんです」
 「私も。……たぶん、“好きじゃない”ってことに、誇りを持てるなら」
 そう言って微笑んだ凛の横顔に、悠人は少しだけ心を奪われた。
 これは恋じゃない──
  そう言い聞かせながら、
  その“自分への言い聞かせ”が、ほんの少しだけ苦しくなってきている自分に、気づきはじめていた。
 ──第5章・了──