魔法使い時々王子

「どうぞ。」

ルイが声をかけると、扉がゆっくりと開いた。

部屋へ入ってきたのは、一人の若い女性だった。

その姿を見た瞬間、シドは目を見開く。

「……君は。」

見覚えがあった。

「彼女がエミリーだ。」

ルイが紹介すると、エミリーはシドの前まで歩み寄り、丁寧に一礼した。

「初めまして、シド様。」

その声を聞いて、シドは思い出したように口を開く。

「……君、確かアリス付きのメイドじゃ……。」

「はい。」

エミリーは表情一つ変えずに答えた。

「ジル様の命により、この国へ参っておりました。」

「じゃあ、君はアスタリトの出身なのか?」

「はい。」

エミリーは静かに頷く。

「ジル様にお仕えしております。」

シドは額に手を当て、小さくため息をついた。

「……兄さん、ずっと探りを入れてたわけか。」

エミリーは否定も肯定もせず、淡々と言った。

「今後は、ジル様のご指示に従い、私がアスタリトとの連絡役を務めます。」

その口調には迷いがない。

堂々としていて、自信に満ちあふれている。

決して嫌味ではない。

だが、一切の隙を感じさせない佇まいだった。

――よほど優秀なのだろう。

シドはそう思った。

「分かった。」

小さく息を吐く。

「よろしく頼む。」

エミリーは再び一礼した。

「承知いたしました。」

エミリーの力強い返事が、静かな執務室に響いた。

迫る嵐は、もうすぐそこまで来ていた。