魔法使い時々王子

シドは作業を終え、戻ろうとしていた。

途中、アリスが手入れをしている温室の前を通った。すると、中でアリスの姿が見えた。
白い手袋をした少女の後ろ姿。小さな鉢に向かって静かにしゃがみこみ、丁寧に苗を植えている。

「……王女様?」
声をかけると、アリスが顔を上げた。
「あら、魔法の人。……何してるの?」

「魔力検知結界の調整さ。ちょっとズレてたから、直してきたとこ」

アリスは小さく頷き、立ち上がった。

「…リアンから聞いたけどあなた魔法大臣の弟子なんですってね。」

「弟子っていうと聞こえはいいけど、実態はほぼ雑用係だよ。今日は結界の調整だったけどね」

アリスは花にそっと水をやりながら、ふと彼の方を見た。
「あの魔法大臣がわざわざ弟子にするなんて、あなたの魔法の腕をかなり買われているのね。」

「お褒めにあずかり光栄です、王女様」

そう言って軽く頭を下げるシドに、アリスは小さく笑って言った。

「名前でいいわよ。アリスで」

「……え?」

「いちいち“王女様”なんて堅苦しいでしょ。あなた、たぶんそういうの苦手そうだし」

シドは一瞬戸惑ったように眉を寄せたが、すぐに表情を緩めた。

「じゃあ、ありがたく。……アリス」

「うん、よろしい」

そのやりとりのあと、ふたりの間にふわりと柔らかい空気が流れた。
花の香りに包まれて、ひとつ小さな距離がほどける――そんな瞬間だった。