魔法使い時々王子

「お仕事で、ご家族と離れることが多いのですか?」

アリスが尋ねると、男性は穏やかに頷いた。

「ええ、そうですね。国へ帰れるのは、三か月に一度くらいでしょうか」

「三か月も……」

アリスは思わず小さく息を呑んだ。

「それは……寂しいですね」

男性は少しだけ遠くを見るように目を細める。

「ええ。もちろん寂しいですよ」

そう言って、小さく笑った。

「でも、帰る場所があると思うと頑張れるんです」

その言葉を聞いた瞬間、アリスの胸が小さく揺れた。

ふと脳裏に浮かんだのは、あの夜のこと。

塔で交わした約束。

そして、別れ際にシドが見せた優しい笑顔。

――待ってる。

あの言葉が、ずっと胸の奥に残っている。

(そうか……)

(私も、あの言葉があったから、今まで頑張れていたのかもしれない)

アリスが静かに考え込んでいると、不意に遠くから声が聞こえた。

「おーい!」

男性が振り返る。

どうやら連れの者が呼んでいるらしい。

「そろそろ行かなくてはいけないようです」

男性はアリスへ向き直り、柔らかく微笑んだ。

「お話し相手になっていただき、ありがとうございました」

そう言って立ち去ろうとした、その時だった。

「あのっ……!」

気づけば、アリスは男性を呼び止めていた。

男性が振り返る。

「あ……えっと……」

自分でも何を言おうとしたのか分からず、一瞬言葉に詰まる。

けれど、すぐに小さく微笑んだ。

「次に奥様とお嬢さんに会える日まで、どうかお身体に気をつけて、お仕事を頑張ってください」

その言葉に、男性は少し驚いたように目を丸くした。

そして、どこか嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございます」

軽く一礼すると、男性は人混みの中へと消えていった。

残されたアリスは、その後ろ姿を静かに見つめていた。

胸の奥に浮かんでいるのは、もう見知らぬ男性のことではない。

遠く離れた場所で、自分を待っていてくれている、あの人のことだった。