魔法使い時々王子

「…あ、失礼」

男性はアリスの後ろを見ながら、少し困ったように笑った。

「今、こちらを離れていった女性……もしかして、お知り合いでしょうか。先ほどから何度か、私の方を見ている気がしまして」

そう言って、会場をきょろきょろと見渡す。

ローズの姿は、もう人混みの中へ消えていた。

「あ……それは、人違いだったみたいです」

アリスは咄嗟にそう答えた。

「そうでしたか」

男性は少し照れくさそうに笑う。

「失礼しました」

そして、一歩下がって軽く一礼すると、再びアリスへ向き直った。

「もしよろしければ、一曲いかがでしょう」

そう言って差し出された手を、アリスは見つめる。

けれど、そっと首を横に振った。

「すみません。実は、ダンスはあまり得意ではなくて……」

「そうですか」

男性は残念そうな顔も見せず、穏やかに微笑んだ。

「実は、僕も得意じゃないんです」

「え?」

「仕事でこの街に来ていましてね。取引相手にどうしてもと言われて、この舞踏会へ」

思いがけない言葉に、アリスの表情も少し和らぐ。

「お仕事で……。では、ご故郷は?」

「ラウゼン王国です」

「それは……ずいぶん遠いところから」

「ええ」

男性は小さく頷いた。

そして、どこか遠くを見るように微笑む。

「そこに、妻と幼い娘がおります」

その横顔は、ほんの少しだけ寂しそうだった。