魔法使い時々王子

「……うわぁ、すごい……」

屋敷へ足を踏み入れた瞬間、アリスは思わず小さく呟いた。

広々とした大広間には、数えきれないほどの人々が集まっている。

皆、美しい仮面を身に着け、音楽に合わせて優雅に踊り、お酒を片手に談笑していた。

豪華なシャンデリアの灯りが会場を照らし、まるで別世界に迷い込んだようだった。

「さぁ、行きましょう」

ローズに手を引かれ、アリスも人の波へと溶け込んでいく。

誰もが仮面をつけている。

身分も名前も隠された、不思議な夜。

(……楽しい)

王宮では決して味わえない空気だった。

ここでは誰も、自分を王太子妃として見ていない。

ただ、一人の女性としてこの場にいる。

そのことが、アリスには少しだけ嬉しかった。

ローズと二人、流れる音楽に身を任せて踊る。

最初はぎこちなかったアリスも、いつしか自然と笑みを浮かべていた。

何曲か踊ったあと、二人は会場の隅にある大きな柱のそばで一息つくことにした。

「ねぇ、見て」

ローズが小さな声で囁く。

「あそこにいる方、とても素敵じゃない?」

アリスは言われるまま視線を向けた。

少し離れた場所で、一人の女性と談笑している男性がいた。

背が高く、すらりとした立ち姿。

黒い仮面に表情は隠れているが、その仕草や佇まいだけで整った容姿であることが伝わってくる。

「……確かに、素敵な方ね」

「でしょう?」

ローズはどこか楽しそうに微笑む。

アリスはそんな彼女を見て、小さく肩をすくめた。

「もう、ローズったら」

するとローズが、くすりと笑う。

「……あら。どうやら、こちらを気にしているみたいよ」

「え?」

アリスがもう一度男性の方を見ると、確かに何度かこちらへ視線を向けているようだった。

やがて男性は話していた女性に軽く頭を下げ、その場を離れる。

そして、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。