魔法使い時々王子

コンコン――。

静かな執務室に、控えめなノックの音が響いた。

「どうぞ」

机に向かって書類へサインをしていたセオが顔を上げる。

部屋へ入ってきたアリスを見ると、その表情をふっと和らげた。

「アリス。園遊会は大成功だったね。エレオノーラ姉上も感謝していたよ。お疲れ様」

穏やかな声を向けられ、アリスは胸の前でそっと手を握りしめる。

「ありがとう、セオ。少しでもエレオノーラ様のお役に立てたかしら……」

「もちろん」

セオは迷いなく頷いた。

「王太子妃としての務めを、立派に果たしていたよ」

その言葉に、アリスはようやく少し肩の力を抜く。

胸の奥に張っていた緊張が、わずかにほどけていくようだった。

けれど同時に、本題を切り出さなければならないことを思い出し、再び指先に力が入る。

「あのね……少し、相談があるの」

「相談?」

アリスは一度視線を落とし、意を決したように口を開いた。

「実は……ローズから、街で開かれる舞踏会に行かないかって誘われたの。仮面舞踏会へ……」

その言葉に、セオは手にしていた羽ペンを静かに置く。

「……仮面舞踏会?」

低く問い返され、アリスは小さく頷いた。

部屋に沈黙が落ちた。

セオは何かを考えるように黙り込み、アリスは下を向いたまま、自分の手を強く握りしめる。

静けさに耐えきれなくなり、先に口を開いたのはアリスだった。

「あ……やっぱり無理よね。公式の舞踏会でもないんだもの。変なことを言い出して、ごめんなさい」

焦ったように言葉を重ねるアリスに対し、セオは腕を組み、ゆっくりと椅子の背にもたれかかった。