魔法使い時々王子

その夜、アリスは落ち着かなかった。

いつも通り夕食を済ませ、湯浴みを終え、淡い色のネグリジェに着替えてベッドに腰掛ける。

けれど、胸の奥だけが妙にそわそわとして、少しも静まってくれない。

そこへ、ルーナが寝る前のホットミルクを運んできた。

「アリス様、どうぞ」

「あ……うん」

アリスは両手でカップを受け取る。

けれど、その指先はわずかに震えていた。

それに気づいた瞬間、アリスは小さく溜息をつく。

(……馬鹿ね、私)

こんなふうに緊張するくらいなら、断ってしまえばよかったのだ。

けれど心のどこかで、ほんの少しだけ――街へ行ってみたいと思ってしまっている。

王宮の外を、自由に歩いてみたいと。

「アリス様、どうかなさいましたか?」

不思議そうにルーナが首を傾げる。

「あ、いや……」

誤魔化そうとして、アリスは言葉を止めた。

心配そうにこちらを見るルーナの顔を見ていると、隠し通せる気がしなかった。

アリスは観念したように視線を落とす。

「……実はね、ローズから誘われたの」

「ローズ様に、ですか?」

「明日の夜、街で開かれる仮面舞踏会に行かないかって……」