魔法使い時々王子

日課となっている、リトとの図書館。

高い天井と静かな空間。
ページをめくる音だけが、かすかに響いている。

——だが。

アリスの視線は、本の上に落ちたまま動いていなかった。

同じページを、ただぼんやりと眺めている。

リトはそんなアリスをちらりと見た。

「……舞踏会が終わってから、ずっとその調子だな」

その一言に、アリスははっと顔を上げる。

「……え?」

間の抜けた声が漏れた。

すぐに視線を落とし、何もなかったかのようにページをめくる。

けれど——

「……何があった」

短く、逃がさない問い。

アリスはしばらく黙っていたが、やがて小さくため息をついた。

そして、本を閉じる。

「……シドから、とんでもない計画を提案されたの」

立ち上がり、本を棚へと戻しながら言う。

「計画って?」

アリスは少し迷うように目を伏せたが——

やがて、静かに口を開いた。

シドから提案されたことを、一つ残らずそのまま伝える。

図書館の静けさの中に、言葉だけが落ちていく。

話し終えたあと。

わずかな沈黙が流れた。

そして——

リトの口元が、わずかに緩む。

「……また壮大な計画だな」

呆れとも感心ともつかない声音。

「それで?」

視線をアリスへ向ける。

「受けるのか?」

真っ直ぐな問い。

逃げ場はない。

「……分からないわ」

アリスは小さく首を振る。

「そんな簡単に、決められることじゃないもの」

その声は、静かだったが——迷いをはっきりと含んでいた。