魔法使い時々王子

アリスは、シドの言葉に目を見開いたまま——

しばらく、何も言えなかった。

静かな塔の中に、沈黙だけが落ちる。

やがて——

「……シド」

絞り出すように、声を出す。

「私……その……」

胸の奥にある想いは、はっきりしているのに——それを口にすることができない。

「……“はい”って、言いたいの」

かすかに震える声。けれどその言葉は、確かだった。

シドの瞳が、わずかに揺れる。

「……だけど」

アリスは、ぎゅっと目を閉じる。

「それを言ってしまっていいのか……分からないわ」

ゆっくりと額に手を当て、小さく首を横に振った。

揺れているのは、気持ちではない。

——立場と、責任。その重さだった。

シドは膝をついたまま、アリスを見上げている。

何も言わず、ただその言葉を受け止めるように。

再び、静寂が落ちる。

長い、長い沈黙。

シドが静かに口を開いた。

「……混乱するのも無理はない」

落ち着いた声。責める色は、どこにもない。

「当然だ…ゆっくり考えてほしい」

その言葉は、優しく——そして、覚悟のこもったものだった。

シドはそっと、アリスの手を取る。

温もりが、重なる。

ほんの少しだけ、力を込めて握ると——

名残を惜しむように、静かに手を離した。